「いったい、どのような入試が望ましいのか」中学受験、議論を呼ぶ問題の難化スパイラル #こどもをまもる
そうした結果、海城の入試問題は次のようになった。 高度経済成長期に多くの家庭が経済的な豊かさを求めて子どもの教育に投資したことが示される一方、学力重視の入試に疑問を感じる人も多いと指摘されている。そうした入試にまつわる議論を示したあとで「公平、公正な入試」とは何かを考えてみよう、という内容だ。45分以内に190文字と160文字の記述2題を含む7つの設問に答えなければならない。
作問にかかわった社会科副主任の新貝哲平さん(34)が話す。 「中学受験は保護者の意思で受験する子がほとんどだと思います。だからこそ、何をやらされているのか分かってほしいという狙いがありました」 難しい知識を問うだけの入試でいいのかを受験界だけでなく、社会全体に投げかけたい思いもあったという。 「問題は教員が温めてきたアイデアを、十数人の社会科教員で議論しながら作ります。専門家へのインタビューや関連の論文、書籍も相当数読み込みます」
「点数化できない素敵な側面」を
今年の入試では、社会の最後の問題は格差についての設問だった。高校生の行き先別の留学費用のデータなどを示し、学力ではなく、経験が評価される入試にはどのような批判があるかを答えさせる内容だ。小学生にとっては相当高度な内容だが、作問にかかわった新貝さんによると、家庭の経済力や文化資本の違いで経験に差が出る可能性があることに気づくかがポイントになるという。 「実は合格した生徒でも、的確に答えられた生徒は少なかったです。中学、高校の6年間で学んでほしい。その一つが社会科の総合学習です」と新貝さんは言う。 小学生に「なぜ入試で試されるのが国算理社の『学力』ばかりなのか、疑問に思ったことはありませんか」と問うた海城中の問題文の最後はこう結ばれている。 〈いったい、どのような入試が望ましいのか今後も議論は続きそうです。とはいえ確かなことは、この議論とは別に、みなさんがこの数年間の努力で獲得してきた知識と経験は、かけがえのないものだということです。 そして、そうした努力の積み重ねの中で「点数化できない素敵な側面」をみなさんは多く培ってきているはずです。 この入試でどのような結果になったとしても、4月からは中学生として、それぞれの場所で、その素敵な側面を家族や友人、先生たちにたくさん見せてあげてください。 それらは間違いなく、みなさんがこれから公平・公正な社会を形作る上で、「点数」や「偏差値」、「学歴」よりも、はるかに価値があるものなのですから〉 国分瑠衣子 北海道新聞社、繊維専門紙記者を経てフリーの記者に。労働問題と入試・受験を主なテーマに取材している。 ------------ 「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。