「いったい、どのような入試が望ましいのか」中学受験、議論を呼ぶ問題の難化スパイラル #こどもをまもる
知識偏重から脱却 問題の質に変化
中受の問題は、単なる難化スパイラルに入っているわけではない、との見方もある。 東京・神楽坂近くの出版社「声の教育社」を訪ねた。各校の過去問を取り扱うことで知られた出版社だ。常務取締役の後藤和浩さんは「昨日の夜も晩酌しながら入試問題を解いていました」と言いながら現れた。「三度の飯より入試問題が好き」で、編集部時代は年間500を超える解説をつくった。問題の傾向や変化には人一倍詳しい。 「最近はストレートに知識を問うのではなく、文章や資料を見て理解し、文章で表現する問題が非常に多くなっています。今のスタンダードと言えるかもしれません」
後藤さんに代表例を挙げてもらった。日本女子大学附属中学校の「社会」の問題で、2023年2月の入試で出題された。 正解を問うと、後藤さんは淀みなく答えてくれた。 「その法律とは改正男女雇用機会均等法です。新聞などの求人広告では、男女別の求人が廃止されました。この問題では、広告を見た上で、求人情報がどう変わるのかを文章で表現できるかがポイントです」
「受験勉強の意味」を回答させたワケ
受験勉強の意味を小学生の受験生に問うた中学校もある。「なぜ入試で試されるのが国算理社の『学力』ばかりなのか、疑問に思ったことはありませんか」。そんな一文で始まる問題が「社会」で出されたのだ。 中高一貫の男子校として知られる東京の海城中学を訪ねると、中3の生徒たちが講堂に集まっていた。中学生活の集大成として、社会科の卒業論文発表会が行われるという。海城の伝統行事だ。 生徒は自分でテーマを探し、見つけ、文献調査や取材、フィールドワークを通して論文を書く。文字数は1万字以上。正解のない問いにどうやってアプローチしていくか。その力が試される。 「大麻への正しい知識を持つためには薬物教育のアップデートが必要です」と発表したのは、星野恵汰さんだ。日本で解禁される医療用大麻をテーマに選び、大麻の根強いネガティブイメージを変えるにはどうしたらいいのかを考えた。医師や薬剤師らを丹念に取材し、論文にまとめた。 星野さんの発表に、会場から質問や意見がガンガン飛ぶ。 「有名人の逮捕とかニュースの取り上げ方にも問題があるんじゃないかと思いました」「高齢者のネガティブ意識を具体的にどう変えますか」 会場の熱気はなかなか途切れなかった。実は、海城の入試問題はこうした学習の“予告編”といえるかもしれない。 「なぜ入試で試されるのが国算理社の『学力』ばかりなのか、疑問に思ったことはありませんか」で始まる今年の入試問題は、中3の卒業論文発表と地続きになっていたからだ。