「いったい、どのような入試が望ましいのか」中学受験、議論を呼ぶ問題の難化スパイラル #こどもをまもる
勉強量は親世代の「3倍」。かつての「かなりの難問」が標準レベルに
午後9時過ぎ、駅前のビルからリュックを背負った塾帰りの小学生が次々と出てくる。ビルを囲むように立つ、お迎えの保護者たちと合流する――。都市部に住む人ならこんな光景を見たことがあるかもしれない。 首都圏模試センターの推定によると、首都圏の私立・国立中学の受験者数は2024年、5万2400人に達した。10年ぶりに減少に転じたが、小学生が受験する割合(受験率)は18.12%と過去最高を更新。少子化にもかかわらず、中受の過熱は衰えを知らない。 大手学習塾・早稲田アカデミーの教務本部長、竹中孝二さんが説明する。 「千葉、埼玉、神奈川の小学生は減っていますが、東京の小学生が一定数います。特に23区の受験率が高い。これを考えると、今の小学1、2年生が受験年齢に達するまで受験率が大きく減ることはないでしょう」
受験率が高水準で続くなか、入試問題は高度化し、それに伴って塾側の対策は強化され、子どもたちの勉強量は増え、それがまた受験熱を高めていく――。しかし、近年の難問化に関しては、強い疑問を持つ保護者も少なくない。東京都内に住む40代の会社員、坂口龍平さん(仮名)もその一人だ。 「自分の時の中受とは全然違う。この本を見ると分かると思います」 坂口さんはそう言って、『解ければ天才! 算数100の難問・奇問』という本を取り出した。初版の出版は1988年。坂口さんが小学生の時だ。自身も中受の経験者で、最難関と言われる国立の中高一貫校を出た。この春には、ちょうど長男が中学を受験した。
「長男のテキストを見て気がついたんです。私が小学生の時に解いた図形の『かなりの難問』が、長男の基礎ドリルに載っていたんです。笑っちゃいましたよ。『かなりの難問』は、なぜ標準問題になったのか。学校がこれまでにない問題を出す。すると塾が、その問題に対応したテキストに改訂する。翌年には違った角度の問題が出る。塾はまたテキストを改訂する……難化スパイラルですよね」 長男の勉強量も、自分の経験とは比較にならなかった。 「塾を選んでいた時に、塾に『皆さんの時と比べると勉強量は3倍です』って言われたんです。その時は『営業トークじゃないの?』と思ったんですが、本当にきっちり3倍ありました」