宇宙誕生直後に分かれた「4つの力」が統一できるとしたら…アインシュタインも夢見た「究極の理論」が実現する日
カギになるのは「真空の相転移」
普通、真空とは何もない空っぽの状態と考えられています。その「真空」が、水が氷になるような相転移を起こすとはどういうことだろう? と、みなさんは不思議に思われるでしょう。 目に見えない微小な現象を説明する量子論の考え方で言えば、実は真空というのは真の空っぽの状態ではありません。よくよく見てみると、その空間では粒子と反粒子がペアで生まれては合体して消滅する、対生成・対消滅というものを繰り返しているのです(図2―3)。
真空にも物理的な実体がある
たとえば電子という素粒子には、陽電子という反粒子があります。医学ではこの陽電子を使ったPET(陽電子放射断層撮影)という機器が作られています。この陽電子と電子も一つになると完全に消滅し、二つのガンマ線を放出します。 このように、粒子はペアで生まれたり消滅したりしているのです。真空の空間とは、本当に何もない空っぽの空間なのではなく、ただエネルギー的にいちばん低い基底状態を「真空」と呼んでいるだけなのです。つまり、真空にも物理的な実体があるということになります。 とすれば、真空が相転移を起こしても不思議なことではありません。 このことを最初に理論化したのが南部陽一郎先生で、2008年にノーベル賞を受賞しました。ノーベル物理学賞では、たとえば新しい粒子を発見したというような、何かを発見したという受賞理由は多くありますが、南部先生の受賞は具体的なものを発見したというのではなく、きわめて基礎的な、物理学全体に関わるような理論を構築したことによるのです。 先に述べた、力の統一理論の最初の理論であるワインバーグ=サラム理論は1979年にノーベル賞を受賞しましたが、これも南部先生の理論がもとになっています。真空の相転移という考え方が、電磁気力と弱い力を統一する電弱統一理論を生み出したわけです。 * * * さらに「インフレーション宇宙論」シリーズの連載記事では、宇宙物理学の最前線を紹介していく。
佐藤勝彦