70歳母の安楽死をきっかけに仏門へ スイス出身の古刹・高雲寺住職 ジェシー釈萌海さん 一聞百見
精神的に深く落ち込む中、当時勤務していた仏教系高校の校長から写経を勧められた。読み方を教わり、音読すると、母への怒りが落ち着いてくる感じがする。そんなときに、東本願寺前である言葉を目にしたのは偶然だった。
《今、いのちがあなたを生きている》
当初は文法的に違和感があった。しかし、命は与えられたもので、決して私有化してはならないとの意味を知り、傷付いた心に深く染み入った。真宗大谷派との縁ができ、知り合った人たちの後押しを受けて得度した。
致死薬が入った点滴の仕切り弁を躊躇(ちゅうちょ)なく開いて逝った母。「なぜ、その強い意志を生きることに向けられなかったのか。心のよりどころがあれば暗闇でも生きることができたのではないか」との思いが今もぬぐえない。
5年前からは依頼を受けて母が安楽死した経験をもとに各地で講演する。人は何のために、何をよりどころに生きるのか-。僧侶として生きる今、人に説きながら自問している。
■文化に魅せられ 異郷の地で「道を求める」
境内に遅咲きの枝垂れ桜が美しかった。平成30年4月7日、真宗大谷派の本山・東本願寺での得度式の光景がいまでも色鮮やかによみがえる。あえて宗祖・親鸞が得度した時期と重ねた。
《明日ありと 思う心の あだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかは》
親鸞は9歳で得度した。この歌は、得度を頼んだ寺から「夜遅いから明日にしてはどうか」と言われた際に詠んだもので、「今このときが最も大切だ」との意味が込められている。
「この歌は私の好きな言葉。だから宗祖と同じ桜の時期に得度したのは、私にとって大きな意味がありました」。振り返れば、親鸞の教えに触れる前から「今」というときを大事にしてきた歩みだった。
日本ではアニメでもおなじみの小説「アルプスの少女ハイジ」。生まれ育ったスイスの村はその舞台にもなり、幼いころの記憶をもとに訪ねる日本人観光客も多いという。
そんな自然豊かな地で育った少女は、日本に憧れた。「5、6歳のころに映画『ベスト・キッド』で空手を初めて知り、強くなりたいと思ったんです」