ある日、義父から突然の「プロポーズ」で結婚を決めた…老舗旅館、“四万やまぐち館”「若女将」の大奮闘
児童書編集部に所属する編集Aは、大の温泉好き。好きが高じて、中学校の保健室が温泉宿(湯治場)とつながり、中学生を癒やすというあらすじの児童文学『保健室経由、かねやま本館。』(著:松素めぐり)の担当をしている。 【漫画】60歳の不倫夫が、ラブホテルでいつも「同じ部屋」を予約するヤバすぎる理由 そんな編集Aが訪れたのは、群馬県の四万温泉の“四万やまぐち館”だ。露天風呂は渓流に面した壮大な造りで、夜には館内で女将による紙芝居の読み聞かせがあり、手作りのクロスワードパズル、まちがいさがしなど、子連れにも楽しめる工夫がたくさんある。 旅館のホスピタリティーに感動した編集Aは、自身の担当作を読んでほしいと、『保健室経由、かねやま本館。』を“四万やまぐち館”の支配人に渡すことにした。そしてこの作品をきっかけに若女将との縁が生まれたのである。 対談後編では、若女将が『保健室経由、かねやま本館。』を読んで感じたこと、また支配人であるご主人とのなれそめや、義母である女将との関係についても伺った。 前編はこちら《「名物女将」のいる群馬の老舗温泉旅館で有名俳優が「人生最後の食事」をした理由》。
会食で義父が父にプロポーズ! 結婚の先に……?
田村彩乃(以下、彩乃):編集Aさんの担当作品に登場する「かねやま本館」は、温泉旅館をリアルに表現されているので、大変共感いたしました。 「かねやま本館」は、悩みを持った中学生が保健室を通じて訪ねることができる、癒やしの宿なんですよね。おいしいごはんで元気を取りもどしたり、自己を内省できるお湯に入ったり。 彩乃:「かねやま本館」の美人女将、小夜子さんも、当館の女将(田村久美子)に似ていると感じました。最新刊(7巻)ではキヨが温泉節を歌うシーンがありますが、当館の女将は、お客様に紙芝居を披露しています。私が旅館に嫁ぐ前から、30年以上続けていることです。 編集A:“四万やまぐち館”にきて、いちばんびっくりしたのが夜に紙芝居が披露されたことでした。わずか数十分のことだったと思いますが、ぼんやりと灯りがともって雰囲気のあるなか、女将の読み聞かせがはじまって、強く記憶に残るひとときになりました。 ところで、彩乃さんと久美子さんはどんなご関係ですか。 彩乃:女将は私の姑にあたります。主人とは、結婚して14年が経ちました。 編集A:嫁姑の関係なのですね。どのような経緯で、歴史のある温泉旅館に嫁ぐことになったのでしょう。 彩乃:私はもともと群馬県内の広告代理店で働いていて、主人とは高校時代の友人の紹介で知り合いました。最初から“四万やまぐち館”の跡取り息子と知っていて、旅館の跡取りと結婚するのは大変だろうなと、気後れする気持ちも正直ありました。一方で主人の人柄の良さに惹かれ、お付き合いがはじまりました。 彩乃:ある日、主人の両親から「気楽にお食事でも」と誘われて、父とともに食事会に行きました。気負わずに参加したのですが、そこで主人の父が「お嬢さんをください」と、私の父に向かってプロポーズしてしまったんです。 私の父も「ふつつかな娘ですが」と応えてしまい、私たちの意思に関係なく結婚が決まってしまいました。 編集A:今では考えられないような話だと思いますが、急展開ですね! それまでご両親と会ったことはありましたか。 彩乃:主人の両親とは、友人とやまぐち館に遊びに行ったときに、すこしだけ話をした程度でした。そのとき女将が私を気に入って、ぜひ四万温泉にきてほしいと思ってくれたそうです。 プロポーズ事件のあと、女将から呼ばれて旅館に行くと、ズラッと反物がならんでいて。私がポカンとしていたら、女将が「着物を選びましょ」と(笑)。なかなか体験できないことなのでワクワクしましたが、驚きも隠せなかったですね。 編集A:彩乃さんは、どんな気持ちだったのですか。 彩乃:最初はすこし強引だなとは思いましたが、実母が他界していることもあって、女将がかわいがってくれることに心地よさを感じてもいました。 今も女将とはふたりで東京に遊びに行くこともあるくらい仲が良くて、本当の母のように思っています。主人ともずっと仲が良いですし、流れに身をまかせてまちがいなかったなと思います。