ガチャマシン開発者は「電源いらず」にこだわる? タカラトミーに聞いたカプセルトイ60年の歴史と矜持
夏に開催された「東京おもちゃショー2024」のタカラトミーアーツブースで「ガチャマシンの歴史」という展示を見た時、ふと気付いた。個々のカプセルトイについては、その進化について取材したこともあるし、実際に自分でも様々なガチャを回して、出てくるカプセルに一喜一憂していたけれど、そのマシンに目を向けたことはなかったことに。 【画像13点あり】「ガチャ2 Ez」のハンドルの裏側にあたる部分。ギアとスプリングで作られているのが分かる 展示を見ると、例えば「上下2面を一体化した新型ガチャマシン」とか、「金庫を1カ所に集約したマシン」「電子カウンターが搭載された高機能マシン」といったキャプションがそれぞれのマシンの横に書かれていたりする。それはユーザーには見えない部分だったり、いつの間にか見慣れて当たり前になっていることがマシン側から見ると大改革だったりと、ただガチャで遊んでいるだけでは、うっかり見過ごしてしまうような部分で、着実に進化していることを表すものだ。 考えてみると、ガチャのマシンとの付き合いは長いのだけど、その構造について考えたことはあまりなかった。大昔、私の子ども時代のガチャは、10円玉を1枚または2枚ハンドルの上にある隙間のようなところに入れると、ハンドルが回せるようになって、ハンドルを360度回すと、小さなカプセルやスーパーボールなんかが出てくるタイプだった。 このタイプは、今でもイベントなどで使われていて、私の身近なところでは、吉祥寺の画廊「リベストギャラリー創」で行われている、猫をモチーフにした表現を集めた展示会「ネコトモ展」での缶バッジ用販売機として、毎年1度は回している。 このお金が見えている状態でハンドルを回すタイプは、仕組みの想像がつく。お金を入れる隙間の大きさや厚みを調整することで、必要な金額を調整できるというのも分かる。
ガチャマシンはアメリカ生まれ
「元々は、1930年代にアメリカで生まれたらしいんです」と、カプセルトイの歴史を話してくれたのは、タカラトミーアーツが、まだユージンだった時代からガチャマシンの開発に携わっていた、現在は生産戦略室の福本始用さんだ。 「アメリカでは、かなり早い時期からカプセルに入ったオモチャが出てくるマシンが流通していたようです。実は、そのカプセルの中に入れるオモチャをアメリカからの発注で作っていたのは、葛飾区近辺(の工場)。『何に使うんだろう、こんな小さなオモチャ』って言いながら作ってたみたいです」と福本さん。 「そのカプセルの中のオモチャを輸出していたのがペニイ商会なんです」と福本さん。ペニイ(当時はペニイ商会)は現在、タカラトミーアーツのグループ会社になっている。そして1965年にアメリカで流通していたマシンを輸入して販売を始めた。つまり、来年はガチャの日本上陸60周年。奇しくも福本さんが生まれたのも1965年だそうだ。 この辺りの事情は、セガにおけるジュークボックスとか、コルグにおけるリズムボックスを想起させる。日本の工場の技術力が、海外の製品と出会って、何かが始まる時代だったのだろうと思う。 そして1986年に、初の日本製のガチャマシン「ビッグマシン」を当時のトミーが発表する。お金を入れるとルーレットが回り、当たりが出るとカプセルが2個出てくるというギミックが搭載されたマシンだった。ガチャ自体がくじ引きっぽい遊びなのに、そこにさらにルーレットを被せてくるあたりに、新しいビジネスの始まりが感じられる。 そして1988年、タカラトミーアーツの前身となるユージンが設立される。「トミー時代に『ビッグマシン』を作って、それを担当していたメンバーが独立してユージンを設立しました。で、ガチャのエポックといわれる『スリムボーイ』を作るという流れになります」と福本さん。 スリムボーイは、トミー→ユージンの歴史の中では3代目のガチャマシンとなる。登場したのは1995年。 「スリムボーイから、ガチャは一気に変わりました。それまで、ガチャマシンは1台で完結していたので、複数台設置したい場合は横に並べて置くしかありませんでした。台の上にマシンが乗っているスタイルですね。で、縦に置きたい場合は金属のフレームを使ってマシンを縦に並べるんですけど、それでは安定が悪いんです。スリムボーイは、プラスチック製で始めから縦に2段連結しています。また、スーパーなどに複数台並べて置かれるようになったので、什器の幅に合わせて並べられるように、スリムな形状にしました」 さらにこの頃から、100円、200円だったカプセルトイの金額が上がっていく。しかし、実はこのお金を入れてダイヤルを回すという部分の構造は、10円を隙間に入れてダイヤルを回していた初期のマシンと今も基本的には変っていないのだという。 「お金を入れる場所は変わりましたけど、中でやっていることは同じなんです。コインの大きさと厚みで金額を判別して、必要な枚数が入れられるとロックが外れてダイヤルが回る仕組みは、ずっと変わりません。タカラトミーアーツ製のマシンは、コインの枚数を厚みで見てますけど、その長さで金額をカウントするマシンを採用しているメーカーさんもあります。そんな風に構造に違いはありますが、やっていることは同じですね」と福本さん。 この仕組みのおかげで、ガチャマシンは電源がいらない。だから設置場所を選ばず、駄菓子屋の店先にも置けるし、駅のコンコースなどに大量に並べられるわけだ。また金額のカウントも厚みや長さを判別する部分を変えるだけなので、同じ機械で300円のものも400円のものも、その中身に応じて売ることができる。これらをデジタルどころか電動でさえなく、機械の機構だけで実現しているのがガチャマシンなのだ。 実は、カプセルトイのマシンを作っているのは、大きくはタカラトミーアーツと、もう1つの2社しかない。そして、それぞれに機械のメカニズムは独自に考案しているそうだ。だから、それぞれに特許を取って独自性を守っている。気軽に回しているガチャマシンは、実は沢山の特許技術が詰まっているのだ。 「スリムボーイの次に出たのが『ガチャ1』です。これが2000年で、ちょうど私が入社した年です。だから、実は私は入社してすぐに、このマシンの改良を担当したんです。その当時、同僚の先輩が開発したのが2005年の『ガチャ2』ですね」と福本さん。