フランス・ナントで、異色の芸術祭『ヴァワイヤージュ・ア・ナント(ナントへの旅)/夏の旅』へ。
木に大きなガラスのジュエリーをとりつけたのはメゾン・パルティエ・フェルール。2019年に結成されたガラス工芸のスタジオだ。彼らは、木にはそれぞれ固有のアイデンティティや歴史があるという。その木の個性を際立たせるためにブレスレットやペンダントが作られた。それらは魔除けのお守りのようでもあるし、木に寄生した他の生物のようでもある。
台湾出身で現在はフランスを拠点にしているユーシン・U・チャンは木に円盤をはめ込んだような作品を作った。円盤には年輪のような縞模様が描かれている。作者は2252年にこの木が最大に生長したときの幹の直径を計算し、そのサイズの円盤をつくった。いつの日か、幹がこれだけ太くなる日のことを想像させる。
パリを中心にしたフランスの街角では、緑色の鋳鉄による水飲み場を見かけることがある。「ヴァラス給水泉」と呼ばれるこの水飲み場は水道事情が劣悪だった19世紀後半、イギリスの篤志家ヴァラスが給水泉を寄贈したことに始まる。素朴・善意・質素・慈愛の象徴である4人の女性像はアートコレクターでもあったヴァラスがデザインし、ナント出身の彫刻家、シャルル・オーギュスト・ルブールが制作した。その多くは今も現役で活躍していて、マイボトルに水を汲むこともできるエコロジーな設備となっている。
ナント市では2022年、「ヴォワイヤージュ・ア・ナント」の一環としてシリル・ペドロサに依頼して市内4カ所に新たなヴァラス給水泉を設置した。彼がデザインした給水泉は、ドームを支えていたはずの4人の女性像が逃げだそうとしているもの。旧来的な役割に辟易した女性たちの解放を暗示する。
このほかにも建物の外壁にある噴水に彫刻を設置したり、トラムにラッピングを施したりとさまざまな場所にアートが出現している。すでにあるものにちょっとした仕掛けを施すことで街の見え方が変わってくる。
『ヴォワイヤージュ・ア・ナント(ナントへの旅)/夏の旅』
フランス・ナント市内各所。~2024年9月8日。原則として24時間公開。鑑賞無料。
text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano 協力:Le Voyage à Nantes (ht...