シロアリはなぜ「木だけ」で生きられる?「100年の謎」を解いた東工大 本郷氏に聞いた
起源は「約20億年前」、ミトコンドリア・葉緑体も共生関係
──共生ということで思い出すのはミトコンドリアです。人間の細胞にも存在するミトコンドリアは、エネルギーの元になるアデノシン三リン酸(ATP)を作る重要な器官ですが、もともとは酸素を用いてエネルギーを作る細菌が祖先ですね。 本郷氏:はい。もともとは約20億年前に、細菌が細胞内に共生したものです。植物の葉緑体も、10億年以上前にシアノバクテリアという光合成を行う細菌が細胞内に共生したものに起源があります。 ミトコンドリアは、宿主と言える我々真核生物の細胞の核ゲノムに多くの遺伝子が移行していて、そこで作られたタンパク質がミトコンドリアに届くような密接な関係があります。またその細胞が分裂するときに同調して分裂して必ず分配されることから、細胞内小器官、オルガネラと呼ばれています。 現在、明らかになっているオルガネラはミトコンドリアと葉緑体くらいですが、実はシロアリの腸内を見ていると、数百万年くらいの単位で、原生生物細胞への細菌の共生が入れ替わり立ち替わり起きているのです。 ──その中には、オルガネラになっているものもいるかもしれない。 本郷氏:原生生物も共生細菌も培養できないので詳しくは分かりませんが、可能性はあります。先ほど申し上げた空気中の窒素をアミノ酸に変換するような細菌が、原生生物の細胞内にたくさん住んでいますが、ゲノムの数は大腸菌の1/4や1/5に小さくなっています。つまり、細胞内での共生に必要な機能に特化しているのです。 ──単細胞生物の細胞内では、こうした細菌との共生はひんぱん起きているのですか。 本郷氏:シロアリ腸内以外の環境に住む単細胞生物においても、必ずではありませんが、細菌が共生している確率・頻度は高いですね。単細胞生物は細胞が1つしかないので、新たな機能を獲得するときに、多細胞生物のように分業できません。そこで、手っ取り早く細菌を共生させることで機能を拡大しているのだと思います。 また単細胞だからこそ、一度共生させたら比較的容易に次代に受け継いでいけるのではないでしょうか。これが多細胞生物だと、生殖細胞に共生細菌が感染しないと次代に受け継げないので、ハードルが高いのだと思います。 シロアリを研究していて思うのは、けっこう簡単に細菌が共生するということです。その中には、原生生物の細胞表面に10万個くらいがくっついて、同調して動くことで“べん毛”のようになり、原生生物が泳げるようになるといったことも起きています。