なぜメダルを逃した久保建英は号泣し「今までサッカーをやってきてこんな悔しいことはない」と語ったのか
蓄積した疲労や精神的なショックなどの条件は変わらない。それでも前半22分までに2点を失い、完全に主導権を奪われた。12日前とは真逆の展開になった要因は、3位決定戦を勝って笑顔で終わろうという気持ちに大きな差があったのではないか。根本的な部分だけに、プロフェッショナルとして自分を許せなかった。だから泣いた。 インタビュアーからは「それでも、最後までゴールを目指す姿勢が伝わってきました」とも問われた。フル出場したなかで攻撃を差配し、一矢を報いる三笘のゴールもアシストした。それでも、負けたという結果しか残らない。勝負の世界の掟を理解しているからこそ、久保は「そんなものは何もならない」とちょっとだけ語気を強めた。 「結果、相手も疲れているなかで3点取られて、こっちは1点しか取れなくて。試合が終わってこんなに悔しいことはないし、ちょっと(メンタル的に)きついですね」 東京五輪の目標を問われるたびに、努めて冷静な口調で「出るからには勝つつもりでいくのは、どの大会でも変わりません」と繰り返してきた。実際には日の丸を背負う覚悟、攻撃陣をけん引していく決意を内面に力強く脈打たせていた。 最大で3人を招集できるオーバーエイジを、森保監督はすべて守備陣にあてた。一時は候補にあがっていたFW大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)が見送られた意味をわかっているからこそ、初戦からエンジン全開で日本の五輪記録を次々と塗り替えた。 U-24南アフリカ代表戦で勝利に導いたゴラッソは、20歳1ヵ月18日と最年少得点記録を21年ぶりに更新した。前出のメキシコとの第2戦での先制弾は最速ゴールとなり、U-24フランス代表戦では史上初の3試合連続ゴールをゲット。すべて先制点だった。 一転して決勝トーナメントに入ると沈黙した。PK戦で勝利したU-24ニュージーランド代表との準々決勝、延長後半に喫した決勝ゴールで敗れたU-24スペイン代表との準決勝ではノーゴール。日本も無得点が続いた状況を堂安はこう振り返った。 「ベスト8から攻撃陣がノーゴールで、今日も1点しか取れなかったことに責任を感じています。代表として戦った以上、負けていい試合はないけれども、この試合が自分のサッカーキャリアの分岐点になったと言われるようにやっていきたい」 東京五輪を前にして、堂安と「オレたちで日本を引っ張っていこう」と誓い合っていた久保も同じ思いを抱いたはずだ。加えて、事前キャンプが始まった7月5日から同じ時間を共有してきたなかで芽生えた、今回のチームに対する特別な思いも涙腺を決壊させた。 24歳以下の若いチームへ濃密な経験を還元し、守備力を介して後方から安心感を与えてくれるDF酒井宏樹(浦和レッズ)、MF遠藤航(シュツットガルト)、そしてキャプテンのDF吉田麻也(サンプドリア)の存在にあらためて魅せられた。 スペインに敗れ、金メダルの夢を絶たれた準決勝後。「すぐに気持ちを切り替えられるほど、自分は強くはない」と本音を吐露した久保は、自らを奮い立たせるように「個人的にも麻也さんと宏樹君には、そういう思いをさせたくない」と前を向いた。