共同購入した宝くじが大当たり 億万長者が大量発生したベルギーの村に行ってみた
「一獲千金」を夢みたことがある人は多いに違いない。その夢を古くからかき立ててきたのが、宝くじだ。ごくまれに起きる宝くじの「大当たり」は、人に何をもたらすのだろうか。その幸運が一部の地域に集中したりしたら、地域は変わるのだろうか。(朝日新聞GLOBE編集部・大牟田透) 【写真】宝くじの共同購入で大当たりが出て億万長者が大量発生したベルギーの村
「なぜ、宝くじを買う人がこんなにいるのだろうか」。東京・有楽町の宝くじ売り場の長い行列を目にするたび、不思議で仕方がなかった。 日本では公営競技と呼ばれる競馬や競輪、ボートレースといったギャンブルだったら、自分なりに研究して勝率を上げるのも不可能ではないかも知れない。だが、宝くじは運任せだ。 当たった人のその後にも関心があった。「あぶく銭は身につかない」などともいうし……。ただ、ごく少数とはいえ、宝くじではほぼ毎回高額当選者が出ている。ひとり、ふたりに体験談を聞いても、しょせん「一例」に過ぎない。高額当選者の全体像にはほど遠いだろう……。 そんな、もやもやした疑問を抱えていた2022年12月、思いがけないニュースがベルギーから飛び込んできた。数字選択式宝くじ「ユーロミリオンズ」で、人口3500人ほどの村で共同購入した165人が1等賞金約1億4290万ユーロ(当時の為替レートで約206億円)を当てたというのだ。ベルギーも日本同様、宝くじの賞金は非課税なので、単純計算では一人あたり約1億2500万円を手にしたことになる。 いきなり大勢の億万長者が誕生した村は、どうなってしまうのだろうか。その様子を知りたくて今年6月、現地を訪ねた。
プールのある家が増えた
目指すオルメン村はブリュッセルから東に直線距離で約70キロ。首都の渋滞を抜け、アップダウンがほとんどない高速道路に乗ると1時間あまりで着いた。緑豊かな田園の地だった。 村とはいっても、行政区分ではアントワープ州バーレン市の一部となる。 この村出身の市議バート・ケニスさん(53)は「オランダ国境まで10キロ。元々は農村だったが、20世紀半ばまでは亜鉛や石炭の採掘が主産業に。その後はアントワープ市まで車で1時間かからないから、若い共稼ぎカップルのベッドタウンになった」と語る。30年ぐらい前までは閉鎖的だったが、若い人たちの流入で変わってきた。貧困や失業とはほぼ無縁の地区だ。 ケニスさんが大当たりを知ったのは抽せんの翌朝だった。自身は買っていなかったが、ニュースなどで知った友人らからお祝いメッセージが相次ぎ、昼までにはメディアも殺到して大騒ぎになった。妻は毎回共同購入していたのに、この時だけ出張で買い損ねたため、2週間ほど落ち込んでいた、と笑う。 「最初は心配していたんだ。落ち着いた気質の人が多い村なのに、ぜいたくを見せつける人が出てくるんじゃないか、嫉妬する人も出てきてギスギスするんじゃないか、と。でも、ほとんど変わっていない。大当たりを取った人を30人ぐらい知っているが、庭がきれいになってプールができた家が少し増えたぐらいだ」とケニスさんはいう。