2017年「物理学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
でも、私たちは空間のゆがみなんて感じたことはありません。それもそのはず。 例えば、世界で初めて観測された重力波による空間のゆがみは「10のマイナス21乗」ほど。これは、“地球から太陽までの間で、空間が水素原子1つ分ほどひずんだ”程度のごくわずかな量です。 そのごくわずかなひずみをレーザーを使って観測したのが、アメリカの天文台「LIGO」(ライゴ)です。 LIGOのチームは1辺が4キロメートルほどもある巨大な観測装置を作り、鏡を使いながら2経路に分かれたレーザー光を何往復もさせ、それぞれの到達時間を比較することで、わずかな空間のゆがみを観測したのです。 重力波を観測できるようになると、宇宙を見る目が変わります。これは私たちの感覚が変わる、という意味ではなく(それもありますが)、宇宙を「見る目=観測するための手段」が増えることを意味しています。今まで人類は、可視光やX線といった電磁波を望遠鏡で捉えることにより宇宙を観測してきました。そこに、重力波という新しい観測方法が加わり、電磁波では観測できなかった「星の中心やブラックホールの周辺」を見ることができるのです。 重力波の存在は、1916年にアインシュタイン博士が予言していたものの、誰も観測できずにいました。その予言からちょうど100年。世界で初めて重力波が観測されたことをLIGOチームが報告したのが、2016年2月です。ノーベル賞の選考スケジュール上、2016年の選考には乗らないことはわかっていたのですが、実は「ちょうど100年で受賞」という奇跡を信じて未来館予想には挙げておりました(そのときの記事がこちら)。しかし、2016年はさすがに受賞ならず。ということで、今年こそ。 重力波の受賞への注目が集まります。 ◎予想=科学コミュニケーター・高知尾理
光格子時計の先駆的研究
《香取秀俊(かとり・ひでとし)東京大学教授》 私たちの生活に欠かすことができない「時間」という概念。時を正確に刻んでくれる時計があるからこそ、私たちは同じ1秒を共有し、待ち合わせができたり、スポーツでタイムを競えたりします。 では、その1秒は何を基準に決まっているのでしょうか?――もともとは、地球が1回自転する時間を1日と定め、そこから1秒を割り出していました。しかし、のちに自転周期は変動することがわかってきたため、1967年に、より普遍的な物理現象である「セシウム原子が吸収するマイクロ波が91億9263万1770回振動する時間」が1秒だと定義されました。 セシウム原子が世界の1秒になってから50年。その間私たちは10のマイナス15乗秒の精度、つまり、0.000000...と続けた小数点以下15桁の正確さで時を刻んできました。3000万年に1秒ほどの狂いです。 「15桁の精度があればもう十分」と感じるかもしれませんが、香取先生が提唱・開発した光格子時計は、これを上回ります。3桁も精度があがり、なんと「10のマイナス18乗秒の精度」。300億年に1秒しかずれません。 光格子時計で時を刻むのは、セシウム原子より細かく振動するストロンチウム原子。吸収する可視光が429兆228億422万9873.65回振動する時間を1秒としています。香取先生は原子の種類を変えただけではなく、特別な波長のレーザー光をつかって100万個ものストロンチウム原子を秩序立てて収納することができる格子を作るアイデアを思いつき、実際に作成まで成功したのです。