「人生に幕を下ろしても、お墓は何百年も残る」――墓石デザイナーが見た死生観の変遷
墓選びのコツとは
人生100年時代、終活の一環としてじっくりと時間をかけてお墓を選ぶ人も多い。散骨や樹木葬、永代供養を選ぶ人もいる。 生前の墓選びのポイントを前出の中井さんに聞いてみた。最初は生協のチラシに載っていた霊園の写真に目がとまり足を運んだという。 「霊園を訪れた時に、都会とは違って自然環境が素晴らしく、日当たりもよく、区画も広いし、『とってもいいところだな』と感じたんです。永代供養の区画で購入しました」(中井さん) 住まいからアクセスがいい、日当たりがいい、自然が多い。条件は人それぞれだが、実際に足を運んで、自分の目でその土地を見て、決定する人が多いようだ。 お墓の形状はどのように決める人が多いのか。芦田さんに聞いた。 「形はシンプルでも、この色がいいというご指定や、文字の大きさをとても気にされる方もいます。石の素材にこだわる方は多いですし、墓の周辺に雑草が生えないようにというオーダーもあります。草むしりが面倒だとお子さんたちが墓参りに来ないと心配されるようです(笑)」
墓石を含めた墓の価格は全国平均で160万円弱。ただし地域差はあり、九州地方が200万円ほどで、都心部はさらに高く、北海道などは低い。早めに相談に訪れる人も多くいる。芦田さんたちとの対話の中で理想を形にして、墓という終のすみかに投影する。 「造り手の思いを込めたいばかりに、迷走してしまうこともありますが、人生に幕を下ろしても、お墓は何百年も残る。私たちはその責任を感じています。心にそっと残るようなお墓を造れたらいいなって思っています」 最後に、芦田さん自身はどんな墓がいいか聞いてみた。 「シンプルな洋型墓でしょうか。できるだけ簡素でシンプルにしたいですね。子孫が入るのを嫌がったらちょっと悲しいので」
--- 芦田あさみ 芸術系専門学校を卒業後、家具メーカー、インダストリアルデザイン事務所で働いたのち現職。メモリアルアートの大野屋へ入社後は、業界でも珍しい女性の墓石デザイナーとして、数々のデザイン墓石の施工を担当する。 キンマサタカ 1977年生まれ。大学卒業後にサブカル系出版社に入社し、書籍編集から営業まで幅広く担当する。2015年に編集者として独立。株式会社パンダ舎を設立し、多くの書籍を手がける。ライター・写真家としても活躍し、岩井ジョニ男のインスタをプロデュースしたことで話題に。