「人生に幕を下ろしても、お墓は何百年も残る」――墓石デザイナーが見た死生観の変遷
変わったデザインの墓や、家名ではなく「愛」などと字が刻まれた墓を見たことがあるかもしれない。墓は決して画一的ではなく、少しずつ形が違い、よく見れば石の色もそれぞれ異なる。近年、墓石の多様化が進んでいるが、陰には墓石デザイナーの存在があった。墓石にかけるそれぞれの思いと、墓石の変遷をたどる。(取材・文:キンマサタカ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ユニークな墓石
東京都内のある霊園にピアノの形をした墓がある。亡くなる直前まで現役でピアノ講師をしていたという母親を偲んで、施主である娘がデザインを構想した。建墓にあたっては、葬祭や墓石関連事業を手がける「メモリアルアートの大野屋」に依頼した。故人のパーソナリティーや、施主の意向を汲み取り打ち合わせを重ねた結果、アップライトピアノとグランドピアノの2通りの案が提示され、最終的にこのデザインにたどり着いたという。 「母が亡くなった当時は悲しみに耐えられず、毎日呆然としていました。お墓のことを考える必要が生まれたとき、画一的なものは嫌だと思ったんです。そこで頭に浮かんだのがピアノでした。小さい頃から我が家にはいつもピアノの音がありましたから、ここにお参りに来ると母がいるんだなって思えるんです。いずれは私も入るつもりだから、素敵なお墓になってよかったです」(墓の施主の山田さん)
こちらは生きているうちに建てる生前墓。クリスチャンである夫と二人で入ることを想定して、妻のアイデアをもとに造ったという。洋型で天使がモチーフになっている。妻がこう説明する。 「石からはみ出して自由にくつろいでいる天使たちが、私たちを光の国へ運んでくれる様子をイメージしました。日当たりのいいお墓を見つけたので、まず墓地だけ購入したんです。子供たちが独立し主人も定年退職して、悠々自適の生活を送るようになったのを機に、お墓を建てることにしました」 二人で明るい世界へ旅立つ日への思いを込めて建てたお墓は、シンプルだが遊び心のあるデザインが印象に残る。穏やかな表情をした天使たちは、訪れる人も安らかな気持ちにさせてくれる。