来店だけでギガ獲得 KDDIの「ローソン推し」が止まらない
KDDIが同社の基本料0円プラン「povo2.0」で、データ容量の無料配布サービス「povo Data Oasis(ポボ・データ・オアシス)」を11月19日に開始した。ケータイジャーナリスト、石野純也さんの解説。【毎日新聞経済プレミア】 容量の受取場所はコンビニのローソンだ。ローソンを訪れた利用者が店内でpovo2.0のスマホアプリを開くと、数回のタップ操作でデータ容量を取得できる仕組みとなっている。1回の来店でもらえるデータ容量は100メガバイト(MB)だが、月10回までこのサービスを利用可能。合計で毎月1ギガバイト(GB)までが無料になる格好だ。 今年から三菱商事とともにローソンの共同経営に乗り出しているKDDI。ローソンとからめた施策が目立つが、背景には「サブ回線争奪戦」も見え隠れする。どういうことか解説する。 ◇連携自体は以前から povo2.0は基本料0円で、3GBや20GBといったデータ容量の「トッピング」を必要なときに購入する仕組みだ。ローソンとは以前から連携しており、現時点ではデータ容量300MBと、ローソンの人気商品(からあげクンなど)がもらえるクーポンなどをセットにしたトッピングを販売中。クーポンのバリエーションは今後も広げていく方針だ。 そんな中、ローソンとの連携強化第1弾として登場したのが、povo Data Oasisだ。データ容量を無料取得できる条件は店舗を訪れるだけ。ローソン内で商品を購入する必要もない。店舗を訪れる機会を増やすことで、売り上げにつなげていく。 これらに加えて、今後は、ローソン店舗内でpovoの「eSIM」も販売していく方針だ。といってもメインで使う回線としてではない。KDDIが狙いにしているのは、メイン回線のデータ容量が不足したときや通信障害時などに、切り替えて使える「サブ回線」だ。 ローソンで販売するのは「ギガチャージ専用eSIM」と呼ばれ、データ通信専用のeSIMとなっている。音声通話ができない代わりに、契約時の「厳格な本人確認」が法的に義務付けられていないため、比較的簡単な手続きで使い始めることができる。メイン回線のデータ容量が尽きてしまった場合などに、安価でデータ容量を追加できるのがこのサービスの売りになる。 一般的な通信事業者の場合、データ容量が不足すると通信速度が低下する。これを解除するには、追加のデータ容量を購入しなければならないが、相場は1GBあたり550円~1100円程度だ。これに対しpovo2.0では、7日間有効の「1GBトッピング」が390円と価格優位性がある。さらにpovo Data Oasisと組み合わせれば、足りないぶんのデータ容量を無料で補うことも可能になる。 ◇「サブ回線」争奪戦 背景には、1台の端末に二つの回線を入れられる「デュアルSIM端末」の普及により、通信事業者間でサブ回線の奪い合いが起こっていることがある。 KDDIの高橋誠社長も「他社を見ていると、セカンドSIMとして他の通信事業者に入っていく動きが出てきた」と語る。他社の契約者に対し、自社回線に乗り換えてもらうのではなく、サブ回線として使ってもらう動きということだ。プラン料金が安く、サブ回線として維持しやすい楽天モバイル、ドコモのサブブランド「irumo」(イルモ)、格安スマホ事業者などを想定した発言とみられる。 利用者にとって、メインで使う通信事業者を乗り換えるのは手続きがやや面倒だ。だがサブ回線を持つことで気軽に月額料金を下げられるなら利点は大きい。 例えば、メイン回線がドコモの人は、料金が安いirumoにプランを変更し、データ容量をサブ回線のpovo2.0で購入すれば、全体として料金が下がることも多い。 まずはサブ回線として使ってもらいながら、徐々に大きなデータ容量を買ってもらえるようになれば、収益増も見込める。 通信事業者の競争の形が、回線そのものの奪い合いというよりも、いかに他社の利用者の懐に入っていけるかに変化しつつあると言えそうだ。