名奉行「遠山の金さん」の彫り物は、桜吹雪ではなく“女の生首”だった!?『禁断の江戸史』より
読者の皆さんのなかには、子どものころ、テレビの時代劇を親と見ていたという人がたくさんいるかもしれない。 悪代官やその代官を結託している商人たちを正義のヒーローが成敗してくれる――。 時に将軍だったり、時に素性を隠した浪人だったり、悪人たちを豪快にやっつけてくれる姿は、見ている私たちをすっきりさせてくれる。その代表格の一人が『遠山の金さん』ではないだろうか。腕にある桜吹雪の入れ墨を悪人に見せつける姿はまさに圧巻。 しかし、その刺青が華麗な桜吹雪じゃなかったとしたら……。 高校教師歴27年、テレビなどにも多数出演している歴史研究家で多摩大学客員教授などを務める河合敦先生によると、「江戸時代のイメージは、明治政府や御用学者、マスコミによって、ねじ曲げられてきた」という。 そこで河合先生に、これまで常識とされてきた江戸時代のイメージがくつがえるような、知られざる事件や新しい史実を教えてもらった。 (この記事は、『禁断の江戸史~教科書に載らない江戸の事件簿~』より一部を抜粋し、再編集しています)
悪人たちを豪快に成敗する「遠山の金さん」こと遠山金四郎景元
「遠山の金さん」の正確な名前は、北町奉行の遠山金四郎景元(かげもと)。皆さんご存じの通り、テレビの時代劇での金さんの活躍ぶりは次の通りである。 ――町奉行の金さんは遊び人として江戸市中で潜入捜査をおこない、犯罪事件の真相を事前に把握しておく。やがて捕縛された悪党どもがお白洲(しらす)の場に引き出されてくると、町奉行として正装した金さんが、彼らに次々と疑問点を糺(ただ)していく。 対して悪党たちは、時には知らぬ存ぜぬといい張り、あるいは平然とウソをつき通そうとする。 すると金さんは突然話題を変え、「そういえばおぬしたち、遊び人の金さんとやらを存じておるか」と切り出し、「はて、いったい何の事やら」ととぼける彼らを前に、「おいおいまさか、おいらの顔を忘れちまったとでもいうのかい」といきなりべんらんめえ調で語り出す。 意表を突かれた悪党たちは、目の前のお奉行の顔をまじまじと凝視する。中にはこの時点で、遊び人の金さんと町奉行が同一人物だと気がつき「はっ」と顔色を変える者もいる。ただ、それでもシラをきり通そうとする。 その態度に業(ごう)を煮やした金さんは、にわかに立ち上がり、ススッとお白洲に並ぶ悪党たちのもとへと近づき、大階段を数歩くだるや、いきなり片肌を脱いで肩の桜吹雪の彫り物を見せ、「やい、やい、てめえら、まさかこの桜吹雪を忘れたとはいわせねえぜ!」と大見得を切る。 この瞬間、悪党たちは仰天し、とうとう罪状を認めて一件落着となる。