自民党総裁選告示:新政権には日本経済の潜在力向上に資する経済政策の推進を
名目値に惑わされるな
足元では、30年超ぶりとなる経済指標が目立っている。例を挙げれば以下のようなものだ。 「34年ぶりの株価(日経平均)水準(2024年)」 「41年ぶりの消費者物価上昇率(2023年)」 「33年ぶりの春闘賃上げ率(2024年)」 「33年ぶりの地価(公示地価)上昇率(2024年)」 「34年ぶりの円安(ドル円レート)(2024年)」 しかしこれらはいずれも名目値である点に注意が必要だ。実質GDP成長率、労働生産性上昇率、実質賃金などの実質値に注目すれば、経済は決して良くなっていない。名目値の水準を高めたのが、海外での食料・エネルギーや円安による物価高とその2次的な影響だ。物価高と円安は相乗効果を持ち、いずれも企業収益の拡大と株高を促してきた。 しかし、既に見たように、物価高こそが個人消費を低迷させてきたのである。30年超ぶりとなる各種経済指標は、いわば「水ぶくれ」の結果であり、実質的な経済が良くなってはいない。名目値の高さに満足してしまって、実質的な経済を改善させる取り組みへの機運が後退してはならないだろう。この点は、今回の総裁選での論戦のポイントの一つとなるではないか。決して気を抜くことなく、政府は労働生産性など経済の潜在力を高める努力を進める必要がある。
アベノミクスの総括が必要に
一般に、新たな政策を検討する際には、過去の政策の功罪をしっかりと検証することが必要だ。しかし長きにわたって大きな影響力を持ってきたアベノミクスについては、岸田政権、菅前政権共にその評価を避けてきたように見える。今回の総裁選では、アベノミクスの総括を是非行って欲しい(コラム「自民党総裁選ではアベノミクスの功罪の評価を」、2024年8月30日)。 ただし、アベノミクスの最大の継承者と考えられる高市氏が、その政策案でアベノミクスに直接言及しなかったことで、親アベノミクスと反アベノミクスは、今回の総裁選では大きな対立軸にまではならない可能性が高まっている。 アベノミクスとは、第2次安倍晋三内閣が打ち出した経済政策であり、デフレからの脱却を目的として大胆な金融政策(第1の矢)、機動的に財政政策(第2の矢)、民間の投資を喚起させる成長戦略の実施(第3の矢)からなる。このうち第3の矢は重要な政策であることは疑いがない。 他方、本来は第3の矢を側面から支える裏方の役割であるはずの第1の矢、第2の矢が、むしろ前面に出てしまい、しかも長期間実施されたことがアベノミクスの大きな問題点だったと思う。主客が逆転してしまったのである。 行き過ぎた金融緩和の一つの弊害は、急速な円安という形で表面化している。日本銀行は今年3月から金融政策の正常化に着手しているが、この政策については、既に見たように高市氏以外の候補は支持しているとみられる。 また、金融政策の正常化の過程では、政府は日本銀行の金融政策の独立性を尊重することが重要であるが、その点を強調しているのは、小林氏と小泉氏だ。