自民党総裁選告示:新政権には日本経済の潜在力向上に資する経済政策の推進を
短期的な経済政策では円安修正が重要
9月12日に自民党総裁選が告示された。石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長、高市早苗経済安全保障担当相、河野太郎デジタル相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官、小泉進次郎元環境相、小林鷹之前経済安全保障担当相、林芳正官房長官の9人が立候補を届け出た。立候補者は2008年と2012年の5人を超え、現在の制度になって以降最多となった。 総裁選では経済政策が大きな争点の一つになる。現状では候補者の経済政策案は、総じて総花的な印象が否めない。また、選挙を意識して短期的な利益に焦点をあてた議論も少なくない。 新政権の経済政策を議論するうえでは、まず現状把握が欠かせないだろう。岸田政権の3年間は、歴史的な円安が進むもとで歴史的な物価高が進んだ。企業収益の増加と株高も進んだ。他方、今年の春闘では高い賃上げが実現された。 新型コロナウイルスの感染リスク低下と水際対策の緩和を受けて、昨年年初にかけてはインバウンド需要が急増し、日本経済を支えた。その原動力となったのは円安だ。 しかし一方で、この円安進行は物価高を後押しし、国内の個人消費を低迷させた。インバウンド需要の景気押し上げ効果が剥落するなか、実質個人消費は今年4-6月期まで1年間減少するという異例の弱さを見せた。 現在、実質賃金が前年比で上昇に転じつつあるなか、個人消費にはやや持ち直しの動きがみられる。しかし、今まで実質賃金の水準と労働分配率が大きく低下したことから、実質賃金のプラス転換だけでは、個人消費の本格回復には十分ではないだろう。 2021年以降、世界的に物価が高騰するなか、欧米を中心に多くの中央銀行が大幅な金融引き締めを行う中、高すぎる2%の物価目標達成にこだわる日本銀行は、異例の金融緩和を維持した。こうした特殊な政策姿勢が生じさせるひずみが、急速な円安という形で一部表面化し、それは個人の中長期の物価高懸念を高めて、個人消費に打撃を与えている。 こうした点から、日本銀行が金融政策の正常化をさらに進め、円安修正を促すことが、日本経済の安定回復にとって重要な政策となる。また、円安阻止・修正のために、政府と日本銀行との連携も必要だ。 多くの候補者は、日本銀行の金融政策の正常化とそれを通じた円安修正を望んでいる。これは正しい判断だろう。他方、唯一高市氏は、日本銀行の利上げに否定的な発言をしている(コラム「高市氏が自民党総裁選に立候補を表明:戦略的な財政出動を掲げ、日銀利上げに慎重な姿勢」、2024年9月9日)。 また、賃上げ継続を経済政策案に掲げる候補者は少なくない。賃金上昇率の上振れは、物価上昇への遅れをとり戻す正常化の一環と言える。高い賃上げを経済政策の柱に据え、それを進めていけば、いずれは実質賃金と労働分配率の過度の上昇が企業収益を損ね、経済環境を悪化させてしまうだろう。 この点から、中長期の観点からの経済政策の柱に賃上げを据えるのは、適切ではないだろう。賃上げはパイを切り分ける比率、いわゆる分配を変化させるだけであり、経済(パイ)全体を拡大させるものではない。