世界は数式で表されるのか? 「残留応力場」の破壊シミュレーションから断層や北極の氷の破壊予測に挑む!
破壊シミュレーションを志した理由は?
──もともと破壊という現象に興味があったんですか? いいえ、大学に入ったときは建築をやりたかったので、ある意味で破壊とは方向が逆ですね(笑)。でも自分には芸術的センスがないし、自然現象を数学で探る計算力学の分野にロマンを感じたので、この道に進みました。 それで入った研究室の研究トピックの一つに、たまたま破壊解析があったんですね。乾燥亀裂もそうですが、自然界に現れるパターンを数学で再現できるのは面白いと思いました。 福井県の東尋坊などで見られる「柱状節理」も不思議ですよね。溶岩が冷えて固まったときに、必ず六角形の柱状になるように亀裂が入るんです。 この現象はいまだに解明されていない謎なので、いつか研究したいと思っていますが。
世界は数式で表せるのか?
──うかがっていると、ガリレオ・ガリレイの「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」という名言を思い出します。 自然界の形をどこまで数学でシンプルに説明できるのか、すごく興味がありますね。ですから数値解析をやるときは、計算のための恣意的なパラメータをできるかぎり少なくして、最小限のモデルでリアルなシミュレーションをしたいんです。 実際、化学強化ガラスの破壊シミュレーションでも、実験結果に寄せてチューニングするようなパラメータは入れていません。入れたのは、材料の性質を表す材料定数だけで、全て実験で計測できるパラメータでした。もちろんパラメータを操作するような計算手法も間違いではないのですが、個人的なポリシーとしては、それをせずにやりたいんです。 ちなみに強化ガラスの後に手がけた「ハマ欠け」の再現も、パラメータチューニングなしでうまくいきました。よく、ガラスや陶磁器などの脆性材料の角に硬い物体がコツンと当たると欠けますよね。その形がハマグリの貝殻に似ているので、日本では「ハマ欠け」と呼んでいます。英語では「エッジ・チッピング」といいます。これは衝突速度や衝突が起こる位置によって少しずつ形が変わるんですね。 ──たしかに、画像を拝見すると、ハマグリの研究をしているのかと勘違いするくらい似ていますね(笑)。 材料を削って物をつくる切削加工の分野では、この「ハマ欠け」を避けることがとても重要なんです。これまではそのメカニズムや過程を解析することができなかったので、勘と経験を頼りにするしかありませんでした。数値解析によるシミュレーションが可能になったことで、こうした加工技術の進歩にもつながるのではないかと思っています。