世界は数式で表されるのか? 「残留応力場」の破壊シミュレーションから断層や北極の氷の破壊予測に挑む!
地震は自分の終わりを知っているか?
私自身は地震の専門家ではありませんが、それを研究する分野には「地震は自分の終わりを知っているか?」という大きな謎があります。「知らない」と考える研究者も少なくありません。 ──「終わりを知らない」ということは、始まった地震がいつ止まるかは予測できないということですか? 地震発生後、断層の破壊が進んでいった先で硬いところにたまたま当たれば止まり、当たらなければ断層に溜まっていたひずみが全て解放されるまで進む、という考え方ですね。そうだとすれば、断層の破壊がどこまで進むのかは、破壊が実際に進んでいってみない限りわかりません。 しかし強化ガラスの実験やシミュレーションでも、残留応力のレベルによって破壊の進み具合が最初から決められていることは明らかです。ですから、実は残留応力の分布や断層を構成する材料の強度などがわかれば、どの程度の破壊が生じるか実際に破壊が進んでいく前から予測できるのではないかと。 ──たしかに強化ガラスの場合、残留応力レベルがいちばん低いものは亀裂が1本しかできませんが、いちばんレベルの高いものはたくさんの亀裂が生じていました。 強化ガラスの研究は、傷のないところに新しい亀裂がつくられる現象を扱ったので、もともと断層の破壊現象である地震とは異質な部分もあるでしょう。でも「残留応力場での動的破壊の進展」という意味では同じなので、シミュレーションによって「地震の終わりを知る」ことができる可能性は十分にあると思います。
南極や北極の氷の崩壊はモデル化できるのか?
──ほかにも、数値解析してみたい破壊現象はありますか? いま興味があるのは、氷ですね。南極や北極の氷山が崩れるとき、柱状に落ちていくじゃないですか。あれは不思議ですよ。 ──氷にも残留応力はあるんですか? あるかもしれませんが、氷のことは私自身まだよくわかっていないんです。ちょっと溶けただけでも性質が変わってしまうので、扱いが難しいんですよね。たぶん結晶構造も等方的ではないので、モデル化するにはいろいろ工夫しなければいけないと思っています。 ──やはり自然現象を数学の言葉で説明したいんですね。 そうですね。その現象のすべてを説明するための必要十分な式を探すのが、私にとってはとても楽しいことなんです。 取材・文:岡田仁志 撮影:松井雄希(講談社写真部) 取材協力・図版提供:海洋研究開発機構
廣部 紗也子( 海洋研究開発機構(JAMSTEC)・数理科学・先端技術研究開発センター(MAT) 研究員)