10月1日、東京科学大学誕生へ。初代理事長語る、東工大・医科歯科大「統合の価値」
「18歳の時に東京工業大学に入学して、今は60歳です。好きで入った大学がなくなる、シンボルマークの『ツバメ』がなくなることに、個人としての寂しさはあります」 【全画像をみる】10月1日、東京科学大学誕生へ。初代理事長語る、東工大・医科歯科大「統合の価値」 こう語るのは、10月1日付けで東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して誕生する「東京科学大学」(Science Tokyo)のキーパーソン。初代理事長に内定している大竹尚登教授だ。 「1881年からの(東工大の)歴史が幕を閉じる、あるいは新たなステップに入る。私自身は楽しみにしています」と、新たな大学の門出に期待も膨らませる大竹教授に、日本トップクラスの国立大学同士の統合の「価値」、そして新大学・東京科学大学の展望を聞いた。 大竹尚登(おおたけ・なおと):東京工業大学教授/科学技術創成研究院長。2024年10月1日より、東京科学大学の理事長に就任予定。東京工業大学大学院理工学研究科で博士(工学)を取得後、東京工業大学、名古屋大学などを経て、2010年に東京工業大学の教授となり、その後、学長補佐、副学長、科学技術創成研究院長などを歴任。
東工大・医科歯科大「統合の価値」
── 統合によって東京科学大学の学生数は1万5000人以上、教員も2000人近くになります。予算規模も単純に合計すると約1200億円とかなり大きい。大学として、何を目指すのでしょうか。 大竹尚登教授(以下、大竹):「善き未来」を作っていく大学になりたいと思っています。英語だと「Brighter Future」とか「Conscientious Tomorrow」とか、何が1番適切な表現なのかは推敲しているところです。これは(東工大、医科歯科大が)単一の大学ではおそらくできなかったことなんです。 ── 善き未来とは? 善き未来は、「善き生活」「善き社会」「善き地球」の3つに分けて表現したいと思っています。 「善き生活」は、英語の「Life(ライフ:人生)」とするのが自然です。それを体現するには(東工大が抱えていた)科学技術だけでは全然足りなかった。おそらく(医科歯科大が持つ)医療はものすごく大きな役割を果たしています。加えて、社会科学も重要です。今回の統合によって、はじめて「善き生活を作る」と言えるようになったと思っています。 「善き社会」も同じです。健康と社会は、強く結びついています。東工大には「TSUBAME(ツバメ)」というスーパーコンピューターがあります。これが医科歯科大(TMDU)の医療データとつながることで、できることがものすごく大きくなる。 今回の統合で、そういった「善き未来」に大きく貢献できるようになったと思っています。 「善き地球」は、ネットゼロとカーボンニュートラルが背景の一つです。ここは東工大が中心にやっていくところだと思っています。ただ、カーボンニュートラル時代の人の生活がどうなるかという部分は実は(医療とも)関係していて、医科歯科大の知見も借りつつ総合的に「善き未来」に向けてスタートしたいと思っています。 ── 統合の発表時には「医工連携」による新産業創出が注目されました。それだけではなく、医療と科学技術の結びつきによる新しい考え方や社会のあり方、仕組みを生み出したいということでしょうか。 むしろ根底はそういうところだと思っています。そのために医工連携は重要だと思っています。ただ、その手前にある生活や社会に向き合うことが大事なのだと。 ── 東工大・医科歯科大それぞれの大学でも同じような課題へアプローチはできたはずです。1つの大学になる価値・意味がまだ見えません。 2つの大学でも共同研究できるのは事実です。ただ、私見かもしれませんが、間に新しい学問や分野、もっと言えば学会ができるのかと。企業なら別々でもできるかもしれませんが、大学は1つになっている方が新しい領域ができやすい。 そういう点で、我々は(東工大と医科歯科大が)お互いにフラットな関係で統合することがすごく大事になります。「医と歯」「医と工」「歯と工」がフラットな関係で議論し、テーマを作っていく。実際、その体制ができつつあると思っています。 実は、(東工大と医科歯科大の)若手同士がコラボレーションする研究プロジェクトを事前に申請してもらっているのですが、非常にたくさんの案が出てきました。採択されたのは45件ですが、申請はもっとたくさんありました。 若手は医工連携をやろうという気持ちになっている。我々としても、医工連携はかなり進むのではないかと期待しています。そこで新しい産業を生んだり、科学技術で産業を振興したり……東工大のもともとの使命でもありますので、徹底的にやっていくことになると思います。