ユナイテッドアローズ「フィータ」にみる今の時代のラグジュアリー
価値を感じる作り手の仕事をつなぎたい
神出デザイナーは「つなぐ」というコンセプトにたどり着いた経緯をこう語ります。「『アナザーエディション』が終了した当時、お店を回っているとお客さまから『ブランドが終わってもずっと大事に着ます』と声をかけられることがあり、服ってずっと残るものなのだとしみじみ感じました。当時はファストファッション全盛期。どんどんモノを作れる場所がなくなって、作りたい生地が作れないことが多々ありました。これから先、自分が作りたい服を作るだけではなく、デザイナーとして10年以上キャリアを積むなかで感じる課題を解決するモノ作りがしたい。自分のデザインで、価値を感じる作り手の仕事につなげられるようなブランドを作りたいと思いました」。
神出デザイナーは「アナザーエディション」のオリジナル商品をインドで作っていたことがきっかけで、現地のモノ作りに出合いました。アメリカやベトナムなどさまざまな生産地を訪れたなかでも、インドの手仕事が「一番個性的で衝撃を受けた」そう。「インドではファストファッションブランドの服を多く作っていて、刺しゅうはきれいでも、出来上がった服はすごく平面的。パターンや生地からちゃんと作り込めれば、もっといいものが作れるのではないか」と感じたのが出発点でした。そこから、ほぼゼロベースで現地の生産パートナーを探し、現在はメインとなる三つの工場と連携して、この刺しゅうならあの州、ウール素材ならあちらの州、という具合にそれぞれ得意とする地域に仕事を発注しています。
「信頼関係を築くまでの最初の3年は、本当に大変でした」と神出デザイナーは振り返ります。「例えば、定番シャツの“トリニティ“の襟は化粧が付いたり、汗染みができたりしやすいので、手入れのしやすさを考慮して裏地だけベージュにデザインしています。でも最初は全く意図が伝わらなくて、何度もサンプルを出し戻ししました」。「スカートのひもの先に付ける鈴の色は細かく決めても、しばらく全然違うもので上がってきてしまったり」と、苦労話は尽きません。