ユナイテッドアローズ「フィータ」にみる今の時代のラグジュアリー
年に2、3回は現地に訪れ、時間を過ごし、生産者側にも「この人は長期的に組んでくれる相手だ」と認めてもらえるよう根気強くコミュニケーションを続けました。言語が通じないときには、絵で意思疎通を図ります。作り手と信頼関係を築くコツは、「作っていただいているという敬意を持つこと」。「『フィータ』の洋服は安いものではないけれど、お客さまに支持してもらえるのは、あなたの持っている技術がすてきだからだよときちんと伝えるようにしています」。何も言わずとも襟裏をベージュにしてくれたとき、「これが『フィータ』だよね、という感覚がみんなの中で浸透してきた手応えがあった」と言います。
コレクションは、1年前からゆっくり時間をかけて製作します。それでも、予定通りにいかないこともしばしば。例えば、「フィータ」のプリントは全て木版を使用。柄を木彫りするところから始まります。それを色数分作るので、版を作るだけでも相当な時間がかかるのは想像に難くありません。版が出来上がると、それを職人の感覚でスタンプのように押していく。「雨が降ると乾かす作業がストップしてしまうんです。ある時、記録的な大雨が続き、全く作業ができなかったこともあります」。
手仕事ゆえ計画していた製品を、次シーズンに見送らなければいけないこともあります。しかし、神出デザイナーは作り手の顔を知っているからこそただ納期を優先することはしません。「現場に行くと時間の感覚が全然違うと実感するんです。1人1人作業のスピードも違うわけで、1着を3日で仕上げられる人もいれば、5日かかる人もいる。手仕事なので完璧に1枚1枚同じものは作れない。でもそのズレ幅を許容しながらも、品質を妥協しないためにはどうすればいいかを考えています」。
神出デザイナーは、「サステナビリティ」という言葉は使いませんが、作り手を敬いながらその手仕事の魅力を最大限に引き出そうとする姿勢はまさに美しい服作りの持続可能性を追求していると言えます。「サステナビリティ」という言葉は、「つなぐ」とも言い換えられるのだと「フィータ」を通して学びました。