自分の“意見のなさ”にがっかり…。中立的な言葉しか出てこない私って、ノンポリなのでしょうか?【桃山商事・清田のお悩み相談】
文筆家として恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを多数執筆している、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之さんによる連載。忙しい日々の中、私たちには頭を真っ白にして“虚無”る時間も必要。今抱えている、モヤモヤやイライラも、ちょっと軽くなるかもしれません! 【画像】桃山商事 清田さんがおすすめ!悩みに効く「セラピー本」
■自分の“意見のなさ”にがっかり…。中立的な言葉しか出てこない私はノンポリ? 【今月の“虚無っちゃった”読者のお悩み…】 最近、自分の“意見のなさ”にがっかりすることがあります。つねにまわりを見てバランスをとる癖がついてしまい、「あなたはどう思うの?」と聞かれたときに中立の立場になるような言葉しか出てこず、「これって何も言っていないに等しいな」「私ってノンポリなのではないか」と悲しくなります。意見がないわけではないのですが、その輪郭が自分でも掴みきれていないような状態で…家に帰ると、虚無ってテレビを見るともなく眺めてしまいます。 ライター藤本:今回のお悩みは、「自分の“意見のなさ”にがっかりする」というもの。「中立的な言葉しか出てこない私って、ノンポリなのでしょうか?」というご相談をいただきました。 清田さん:なるほど…。自分も昨夜、マッチョな筋トレ系インフルエンサーが「結果がすべて」「努力から逃げるな」と見る者を煽りまくるショート動画を見すぎて虚無っておりました。 「つねにまわりを見てバランスをとる癖」とあるように、相談者さんはそんな自分をネガティブにとらえているわけですよね。逆に言えば、はっきり自己主張できること、スタンスがブレないこと、エッジの立った意見を持っていることをよしとしている。「ノンポリ」=「ノンポリシー」、つまり自分は何事にも傍観的で無責任な人間なのではないか、何も考えずにぼんやり生きているのではないか、と不安に感じているというのが相談者さんの現在地だと思われます。 でも、お悩みの中にも「意見がないわけではないのですが」とあるとおり、ご自身の意見はあるわけですよね。意見を持っているはずなのに「自分には意見がない」という自己認識が生まれている…これはどういうことなのでしょうか。 ライター藤本:よく考えると不思議ですね。 清田さん:思うに、輪郭があって明確に言語化できるもの=意見というようなイメージがあり、自分にはそういうものがない=意見がない、という考えになっているんじゃないかと想像します。でも、考えがはっきりまとまっているときのほうがむしろレアで、だいたいは輪郭も不明瞭で、「こうかな」と思うこともあれば「違うかな」と思うこともある、というように揺れ動いているものじゃないかと思うんですよね…自分自身を振り返ってもそうですし。 エディター種谷:確かに…。ただ、今ってSNSでバズる発言などを考えてみても、わかりやすいものがよし、とされる風潮がある気がします。 清田さん:そうなんですよね。断言しているもののほうが評価されやすいし、だからこそ、相談者さんのようなお悩みが生じるのもよくわかります。でも、どうなんでしょうか。短くてわかりやすい言葉って、一見インパクトは強いように感じるけれど、そこまで心に残るかというと、どうなんだろうって気もするんですよね。 例えば「人生で読んだ本ベスト3」や「感動した映画ベスト3」なら挙げられても、「印象に残ったツイートベスト3」は思い浮かぶかどうか…。その直前に見たものしか思い出せなそうじゃないですか(笑)。本来、意見というものは、複雑で重いデータだから、簡単に圧縮して140文字や1枚の写真で伝えるのは無理。そのまま自分の“ビッグデータ”に保存して、複雑さや重さと葛藤しながら育てていけばいいんだと思います。 文筆家 清田隆之 1980年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。文筆家、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを執筆。著書に、『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門―暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)など。近著に、『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)。 取材・文/藤本幸授美 イラスト/藤原琴美 企画・構成/種谷美波(yoi)