ポップオペラの貴公子、藤澤ノリマサ ライブ出来ず苦しいコロナ禍に新チャレンジ
ポップオペラの歌唱法とは
そんな流れからセリーヌ・ディオンとテノール歌手アンドレア・ボチェッリのデュエット曲を聴き大きなインスピレーションを受ける。 「ボチェッリのクラシックの歌唱法とセリーヌの歌唱法、もしこれを1人で歌えたらかっこいいだろうなと。それで声楽を勉強したくて音大に入学しました。デビューは2008年なのですが当時から掲げたポップオペラというスタイルは音楽のフィールドとしてはポップスです。ただ歌唱法としてはツーウェイ。サビでクラシックやオペラのメロディになり、歌い方もクラシックの歌唱、それ以外のところはポップスのメロディを新たに作り、歌い方はポップス調です。だから歌っていてだんだんクラシックに移行していくイメージなんですね。当時、グループでは似たスタイルをとっている方もいましたが、ソロではかなり珍しかったと思います」 それだけ個性的なスタイルを打ち出してもデビュー後は必ずしも順風満帆とはいかなかった、と振り返る。 「『千の風になって』の秋川雅史さんとか『Jupiter』の平原綾香さんがいて……。当時の平原さんはモチーフはクラシックですが歌い方はポップスシンガー、秋川さんはテノールの歌い方で全部を通している。僕はその隙間と言ったら変ですけど、最初はポップスで入ってサビでいきなり人格が変わったようにクラシックの歌唱になるので、デビュー当時はよく有線放送を聴いた方から『何人組なんですか? デュオ?』という問い合わせが結構ありました。でも当時はバッシングもされました。それまでのクラシックの伝統にはあまりなかったことですので」 ポップスとクラシックの歌唱の違いをわかりやすく言うと、口の開け方が横か縦か、なのだという。 「ポップスの発声法はマイク前提で、僕はどちらのパートもマイクで歌っていますけど、基本的に口を横に開けて歌うんです。だから声が拡散するんですけど響かないんですね。逆にクラシックは縦で、卵が縦に入るような感じでキュッと口を開けて声のフォーカスを絞るというか。そうするとノーマイクでも2000人キャパの劇場の2階席、3階席まで声が届くんです。それを1つの曲の中でやるわけです」
感謝と向上心を忘れない姿勢
『La Luce』ではいったんポップオペラをお休みしてソングライティングに挑み、全編に渡りポップスの歌唱で聴かせる。 「本当に恵まれていたと思います。やっぱり同期でデビューして辞めて行った人もたくさんいる中で14年やれている。でも満足はしたことはないというか、やはり上を目指して行きたいですね」 コロナ禍という逆境にあって、むしろ恵まれていたことへの感謝と前を向き続けることを忘れない。そんなひたむきな藤澤の音楽が、多くの人を力づけることに期待したい。 (写真と文:志和浩司)