NGリスト問題を理由とする記者会見の失敗論について
4. 記者会見の「失敗」という中身の不明確
記者会見の「失敗」との点ですが、その「失敗」の中身は何なのでしょうか。 NGリスト問題で、実際にはNG扱いなどしていないのに、旧ジャニーズ事務所は批判されましたが、その批判の結果、旧ジャニーズ事務所に、具体的に、どのような支障が生じたのか、十分に検討している見解があるようには思われません。 また、NGリストに対する批判自体も、本見解の類いを除けば、NGリスト問題が2023年10月4日に報道されてから約1週間で、旧ジャニーズ事務所による2023年10月10日のプレスリリースで収束しています。 このNGリスト問題の批判があったことで「レピュテーション・ダメージがあった」、「信頼回復が遅れた」等と抽象的な言葉を並べることはできても、それでは、その結果、具体的に旧ジャニーズ事務所の取組にいかなる支障が生じたのか、NGリスト問題がなかったら一体何が変わっていたのか、本見解は、説明できておらず、「失敗」の具体的な中身を示すことができていないと思います。 「失敗」との批判があることそれ自体が失敗だというに止まるのであれば、前述のとおり、循環論法であってマッチポンプと変わらない、となります。
5. 最後に
NGリスト問題に関する批判の多く(この中には、企業関係者を主たる読者層と想定していると思われる大手新聞なども含みます)には、本稿で述べた指摘が当てはまります。事実と証拠(裏付け)に基づいて問題の本質を掘り下げる、という報道の本来の在り方からの検討が必要になるところです。 なお、視点は全く変わりますが、記者会見については、商業化の指摘など、朝日新聞2023年12月1日朝刊13頁「(耕論)記者会見に求めるもの」(林香里氏、石破茂氏、石戸諭氏(氏名は掲載順))の各コメントには、危機管理や危機管理広報という観点からも、示唆に富む、検討すべき内容が多いと考えられます。 本稿の締めくくりとして、企業の役職員など、記者会見に臨む者にとって大切になることについて、改めて強調しておきます。記者会見では、自分の責任は「真摯な謝罪と説明」であるということを常に思い返し、どれほど非難されようと、誠実に説明し続けることです。ぶれたり迎合などするべきではありません。 記者会見で厳しく批判されるのは当たり前です。そのためには、記者会見出席者は、記者会見の席上で、「正しいことをする」という信念を持ち続け、常に「正しいことは、(記者だけでなく)全てのステークホルダーに対する真摯な謝罪と説明である。非難や批判を正面から受け止めて、誠実にありのままの事実や認識を説明することが正しいことだ」という姿勢で臨むことが重要です。 記者会見の練習や頭の下げ方などにあまり意味はなく、大切なことは真摯な謝罪と説明であり、事実関係や原因、責任の所在等といった「中身(サブスタンス)」です。それを、下手でもよく、どんなに非難されてもよいから、誠実にステークホルダーに伝えていくことです※5。 ※5 拙稿「危機管理及びコンプライアンスにおける本質は「正しいことをしよう」にあり」当事務所・危機管理ニューズレター( 2024年4月30日号 )3頁参照。
木目田 裕