NGリスト問題を理由とする記者会見の失敗論について
2. 事実に反して、旧ジャニーズ事務所がNGリストを記者会見ベンダーに作成させたことを、暗黙の前提にしていると思われる点
本見解の多くは、旧ジャニーズ事務所がNGリストを記者会見ベンダーに作成させたことを、暗黙の前提にしているように思われますが、かかる前提は事実に反する上、論評の仕方として疑問があります。 旧ジャニーズ事務所がベンダーにNGリストを作成させたという事実関係であれば、確かに、旧ジャニーズ事務所「による」「記者会見の失敗」となりますが、事実関係として、NGリストはベンダーが独断で旧ジャニーズ事務所の意思に反して作成したものです。 本人の意思によらない他人の行為を理由にして、その本人を記者会見の失敗と批判することは、適切であるとは思いません。これに対し、もし、旧ジャニーズ事務所の指示に基づいてベンダーがNGリストを作成したのだと考えているのであれば、根拠や証拠を提示しつつ、その旨を正面から主張した上で論評するのが正しい在り方ではないでしょうか。 その上、NGリスト自体は性加害問題の本質から外れた問題です。記者会見での代表者等の不適切な発言などが問題とされた件とは異なり、旧ジャニーズ事務所の記者会見では、登壇者の発言内容に失言があったとされているわけでもありません。 本件の事実関係を前提にする限り、NGリストを理由に批判するのであれば、記者会見運営を行う危機管理広報のコンサル業者の在り方を問う必要があります。 これは、NGリスト問題に関し、一部の危機管理広報のコンサル業者が記者会見の失敗等と喧伝したこと※2にも現れている問題ですが、 ※2 なお、こうした危機管理広報のコンサル業者のコメントの中には、実際の記者会見の録画等を見ているとは思えないコメントもありました。例えば、あるテレビ局の報道で、危機管理広報のコンサル業者が有識者として登場し、「旧ジャニーズ事務所がNG扱いをする意図がなかったのであれば、会見の現場で、司会に指示してNGとされた記者を指名して、回答するべきであった」という趣旨のコメントをしていましたが、上記1(3)のとおり、私と他の登壇者の間で相談して、その場で、司会に断って、NGとされた記者の方を指名して質問して頂き、登壇者から回答しています。 ●「記者会見をうまく乗り切ろう」等という動機付けが危機管理広報のコンサル業者等に働くと仮定すれば、それこそがNGリストのような依頼者の利益を損なう問題を生む背景になってしまうのではないか ●企業不祥事の記者会見では真摯な謝罪と説明こそが重要であり、どれほど厳しいものであろうと、企業は批判を真正面から受け止めていくべきであって、「記者会見をうまく乗り切ろう」「批判されないようにしよう」という発想は適切でなく、むしろ有害なのではないか ●危機管理広報のコンサル業者等が記者会見で果たすべき正しい役割は何か、危機管理広報のコンサル業者等がNGリストを独断で作って、しかも、それが報道機関に流出して企業が批判されるというのは危機管理広報のコンサル業者の存在意義の自己否定ではないか 等といった点を考える必要があるのではないかと思われます。