休業補償を受けられない――飲食店アルバイトの苦悩、制度の盲点と求められる支援金
支払われない休業補償
政府は2020年4月から「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」を設置した。新型コロナの影響により、事業者が休業手当を支給して従業員を休ませた場合、あるいは時短にした場合、国が助成するというものだ。当初、1日最大1万5000円で、中小企業では100%、大企業では75%が出されることになった(2021年1月から大企業も最大100%に変更)。 にもかかわらず、浅見さんはどちらの企業でも雇用調整助成金の対象外とされた。理由はアルバイトのダブルワーク。思わぬ理由に愕然としたと浅見さんは言う。 「雇用調整助成金は、会社が国に申請する制度ですが、どちらの店でも『あちらの店でお願いして』と言われたのです。彼らの言い分によれば、どちらかの勤務先がメインとわかれば、休業補償の対象となると。でも、私の場合、働いている時間の比率にほとんど差がないダブルワーク。『メインが判明しづらい場合は申請できない』と説明されました。私はただ生活が苦しいので二つの会社で働いているだけなのに……」
浅見さんは2015年からチェーン店で働き始め、翌年に夫と離婚し、19年からはもう一店でも働くことにした。二人の娘は独立していたため、自身の生活費を両方の収入で賄ってきた。 「働いて寝て、朝になると支度して。それだけの毎日ですが、休みは娘とLINEで話をしたり、マルイで服を買ったりと穏やかな日々でした」 今の月収は16万円まで下がったため、「軽自動車が買える程度」だった貯金を少しずつ切り崩している。カフェでのコーヒーブレイクは自宅でインスタントコーヒーに抑え、着なくなった服をメルカリで売って水道光熱費にあてた。 浅見さんは麺の湯切りで変形した左手の親指をさすりながら、こう話した。 「私より大変な人もいる。つらいのは私だけじゃない。そう自分に言い聞かせています」
解雇される非正規労働者
昨年からコロナ禍が続くなか、飲食店などの非正規労働者に深刻な影響が出ている。総務省の労働力調査によると、2020年3月から21年3月まで、非正規労働者の数は13カ月連続で前年より減少した。企業にとってアルバイトやパートなどの非正規は解雇しやすいためだろう。 だが、こうした明らかな失業ではなく、見えにくい形で影響を受けている人もいる。浅見さんのように補償もなく休業を強いられた人たちだ。今年3月、野村総合研究所が発表したパートやアルバイトの調査によると、そうした非正規労働者は女性が約103万人、男性が約43万人いるという。休業者(244万人)、失業者(約197万人)に次ぐ規模だ。 雇用調整助成金から受け取れるはずだった休業補償をもらえていない。そういう人が飲食業や観光業に多いという。