ノーベル物理学賞 「ニュートリノに質量があった」70年の定説覆す大発見
■マクドナルド博士の実験
マクドナルド博士らのグループは、カナダ・オンタリオ州の地下に設置された「サドベリー・ニュートリノ観測所」という実験施設でこの謎の解明に挑みました。装置の基本的な仕組みはスーパーカミオカンデと同じです。スーパーカミオカンデにはタンクの中に水が入っていましたが、サドベリーの装置には重水素と酸素でできた水「重水」が入っています。この装置で観測できるニュートリノの特徴は2つ。電子型だけを観測できることと、3種類すべての総数を区別せずに観測できることです。装置の中で起きる反応の違いによって、この2つを見分けられるのです。
それでは、実験結果を見てみましょう。太陽からやってきたニュートリノの数(1平方センチあたり)は、電子型のみが毎秒175万個、3種類の合計は毎秒509万個でした。つまり、電子型が毎秒175万個で、ミュー型とタウ型合わせて毎秒334万個となります。 これは不思議ですね。太陽で生み出されるニュートリノは電子型なので、太陽を出発した時点では100%電子型だったはず。しかし、地球に飛んできて装置の中に入ったときには、電子型は最初の3分の1ほどに減ってしまいました。残りの3分の2はミュー型とタウ型に変わってしまったことになります。そんなことが起こるのでしょうか?
■鍵をにぎる「ニュートリノ振動」
宇宙線が大気にぶつかってできるミューニュートリノの数は、なぜ予想より少ないのだろうか(大気ニュートリノの謎)。太陽から地球にやってくる電子ニュートリノの数は、なぜ予想より少ないのだろうか(太陽ニュートリノの謎)。この2つの謎に迫る鍵を握っているのが「ニュートリノ振動」なのです。 ニュートリノ振動とは、ニュートリノの種類が飛行中に変わってしまう現象のこと。チョコボールで例えると、ピーナッツ味を誰かの口に向かって投げたのに、口に入ったときにはキャラメル味になっている。そんな不思議な現象が起こっているのです。
■飛行中に“味”が変わる?
なぜニュートリノの種類が変わってしまうのでしょうか。まずは、ニュートリノを「カフェラテ」に喩えてお話したいと思います。カフェラテは、コーヒーと牛乳を混ぜた飲み物です。同じカフェラテでも、お店によって味が少しずつ違いますよね。ある店では、コーヒーを多めにしているかもしれませんし、別の店では牛乳を多めにしているかもしれません。 実は、電子型やミュー型、タウ型のニュートリノの分け方も「フレーバー(香り・味)」と呼ばれていて、いろんな重さを持つニュートリノが混ざり合っています。 例えば、混ざり合っているニュートリノの状態を、ニュートリノ1、ニュートリノ2、ニュートリノ3とします。つまり、電子型もミュー型もタウ型も、中身は同じでニュートリノ1、2、3が混ざってできています。混ざっている比率が違うだけなのです。このような考え方を「ニュートリノ混合」と言います。