ノーベル物理学賞 「ニュートリノに質量があった」70年の定説覆す大発見
■梶田博士の実験
それでは、この「大気ニュートリノの謎」にかかわる梶田博士らのグループの実験を紹介したいと思います。活躍したのは、岐阜県北部の山の地下1000メートルに埋まっている「スーパーカミオカンデ」(飛騨市神岡町)という実験装置です。直径40メートル、高さ40メートルの巨大な円筒型のタンクの中は、5万トンの水で満たされています。装置の中に飛び込んでくるニュートリノが、ごくまれに水の原子核や電子と反応して、電気を持った粒が飛び出して青白い輪っかの光を放ちます。その光を捉えて間接的にニュートリノを観測する装置です。
梶田博士らのグループはこの装置を使って、大気ニュートリノの数を数えました。上空からやってくるニュートリノと、その真逆である地球の裏側からやってくる数を比べてみました。地球に突入する角度が同じであれば宇宙線の粒子の数はほぼ同じ。だから、正反対(180度)の地球の裏側から飛んで来るニュートリノの数は、ほぼ同じになるはずです。
それでは、実験結果を見てみましょう。電子型は2方向から来る数は同じでした。一方、ミュー型は、地球の真裏からやってくる数が、上空からやってくる数の半分ほどしかなかったのです。
2方向からやってくるニュートリノの違いは「移動距離」です。上空からのニュートリノは大気で生み出されてすぐに装置に飛び込んだものですが、地球の裏側からのものは大気でできた後、地球の中を通過して装置に飛び込んだものです。つまり、移動距離が長くなるとミュー型の数が少なくなっていたのです! 電子型の数は、2方向の数に違いがありませんでした。そこで、梶田博士らのグループは、ニュートリノが飛んでいる途中に、ミュー型からスーパーカミオカンデでは観測できないタウ型に変わったのではないだろうかと考えたのです。そんなことが起こるのでしょうか?
■太陽ニュートリノの謎
太陽ニュートリノとは、太陽で生み出されて地球にやってくるニュートリノのこと。太陽の中心部で起きている核融合反応により生み出された電子ニュートリノが、8分後に地球に降り注いでいます。1960年代の半ばに初めて観測しましたが、太陽から地球にやってくる電子ニュートリノの数は、太陽モデルの計算により予想された値の3分の1ほどしかなかったのです。これが2つ目の謎「太陽ニュートリノの謎」です。なぜでしょうか?