「富士山噴火」で起きる「火砕流」とすさまじい破壊力の「火砕サージ」…もし襲われたら「即死」の恐怖
火砕流のハザードマップ
火砕流はいったん発生すると、自動車でも逃げることができないほどの高速で流れ下る。富士山で発生する火砕流の速度は、時速100ロメートルを超えると予想されている。この速度は、火砕流としては一般的なものである。では、もしも富士山が噴火したら、火砕流はどこまで到達するだろうか。ハザードマップを見てみよう。 火砕流が発生する領域は、想定火口範囲(「ハザードマップの富士山想定火口範囲」)のかなり内側にある。山頂周辺の急な斜面に降り積もった噴出物が崩壊して流れ出す可能性がある地域である。たとえば、固結したマグマが着地したあとに、一気に崩れて急斜面の上を火砕流として流走しはじめると考えられているのだ。 このためハザードマップでは、火砕流の発生地域は想定火口範囲の中でも、降り積もった粒子が自然に落ち着き定着する「安息角」を超える急斜面に設定されている。ここでの安息角は、富士山の麓に形成された火砕丘の最大傾斜から、30度と設定している。 火砕流のハザードマップの作成にあたっては、富士山で確認された火砕流のうち、規模が最大である滝沢火砕流を用いて数値シミュレーションをしている。240万立方メートルの火砕流に対して、粒子流のモデルを使用して到達範囲をシミュレーションしたものである。
火砕サージの予想到達範囲
これに加えて、火砕サージの到達範囲も予測している。火砕サージは火砕流の本体部よりも流動性が高く、広範囲に流下すると考えられる。 しかし火砕サージに関しては、粒子流モデルなどの適用できる力学モデルが完成していないめ、ほかの火山での実績から推定している。一般に、火砕サージは火砕流本体の到達限界からさらに1キロメートルほど遠くまで分布している。したがって、火砕流の範囲から外側へ1キロメートルを火砕サージの到達範囲とした。 このようにして、火砕流本体とそこから分離する火砕サージが流下する範囲を、9個の異なる火口について計算した。 その結果をもとにして作成されたのが、火砕流と火砕サージを合わせた「火砕流の可能性マップ」である。この図は、富士山の山頂と山麓で火砕流と火砕サージが発生した場合に、どこまで到達する可能性があるかの最大領域を示したものである。 囲みの中で、最も下流の先端をつなげたものが、この可能性マップなのである。これを見ると、火砕流と火砕サージの被害は富士山の全周にわたって発生する可能性があることがよくわかっていただけるであろう。