台湾有事に備え、態勢強化を進める日米。重視するのは「沖縄・先島諸島」 訓練強化、地元住民に募る不安
日米両政府が、中国による台湾への軍事侵攻が発生する事態を念頭に、南西諸島で態勢強化を進めている。台湾有事が起きれば「戦闘に巻き込まれる」(防衛省幹部)との懸念があるためだ。有事に対処するための日米共同計画は機密性が高く、全容は明らかでない。複数の関係筋の話から、地理的に近い沖縄県・先島諸島を戦略的に重視する計画の一端が浮かんだ。(共同通信=西山晃平) 【写真】陸上自衛隊石垣駐屯地で、離島防衛を想定した訓練をする隊員
▽抑止力と住民配慮のバランス 台湾の東約110キロに位置する先島諸島の西端、与那国島。馬が道路を歩くのどかな風景が特徴的だ。2022年11月、陸上自衛隊与那国駐屯地に日米共同演習「キーン・ソード」の一環として、ひっそりと日米の調整所が設けられた。米軍が先島諸島に入って実施した初の共同演習。地元住民に不安を与えないよう「米兵の外出は禁止」(日本政府関係者)だった。 約1年後の23年10月に実施された陸自と米海兵隊の実働訓練「レゾリュート・ドラゴン」では、与那国島に加え石垣島にも日米調整所を設置。航空自衛隊は那覇基地からC2輸送機で新石垣空港に米軍の対空レーダーを空輸し、陸自の輸送機オスプレイも石垣島に飛来した。 これらに先立つ22年6月、在沖縄米軍トップのビアマン沖縄地域調整官(当時)は、共同通信のインタビューにこう強調していた。「信頼できる軍事力を訓練などで示し、敵の行動を抑止しなければならない。(県民の)敏感な感情は認識している。連携を密にしている自衛隊が地元自治体との連絡窓口になる。われわれは即応性とのバランスを取らなければならない」
▽米空母の接近を拒否する中国の軍事力 なぜ、米軍は先島諸島に関心を示すのか。背景には、中国の急速な軍事力の進歩がある。 2001年の米中枢同時テロを受け、米軍はイラクやアフガニスタンで戦闘に従事した。本土が大規模に攻撃されたショックは大きく「テロとの戦い」が最優先とされた。 こうした米軍の中東などへのシフトをよそに、中国は着々と軍拡を進めた。1996年に台湾近海でミサイル演習をして軍事的圧力を強めた際は、米軍に空母を派遣されると引き下がるしかなかった。しかし、対艦ミサイルなどの「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」能力を強化し、現在は中国近海で米空母の航行は困難になったとされる。 戦略環境の変化を踏まえ、米海兵隊は小規模部隊を島々に分散させる「遠征前方基地作戦(EABO)」を考案した。日本の南西諸島から台湾、フィリピンに至る「第1列島線」に部隊がとどまり、中国軍に隠れて前方で偵察する他、対艦ミサイルによる攻撃や移動を繰り返す戦法だ。