『ネコ全史』矢能千秋さん 翻訳者仲間の力も借りネコの疑問を解消
調べてもなかなかたどり着けなかったのは、中国の李寿というネコの女神。日本語で調べてもあまり出てこなかったのです。 翻訳者同士は、割にツイッター(現・X)上で交流がありまして、中国語の翻訳者の方とも相互フォローしたりしているので、この時は、ちょっとお知恵をお貸しくださいとお願いしました。こういうネコの神様は中国にいるんでしょうか、調べても出てきませんとツイートしたら、中国語の翻訳者の方がリツイートしてくださったり、「出てこないから百度(バイドゥ。中国の検索大手)に行ってみてくるわ」と言って調べてくれたりしました。結局、中国語でもあまり出てこなかったので、英語圏に伝わる中国のネコの話なのかもしれません。英語の検索結果では多かったのです。 原著の段階で米国ナショナル ジオグラフィックが精査して出版したものではあるのですが、翻訳者として1つ1つ根拠や背景を確認して疑問を潰しておきたいので、知識が足らなかったら知恵を借りるみたいなことをしています。 『ネコ全史』は写真も豊富に掲載されていますが、写真などは原著と同じものなのですか? 原著も100ページでレイアウトも写真も一緒です。出版物の海外展開をするときに、例えば英語の原著を日本語、中国語、スペイン語など各言語に訳して、写真やイラストはそのまま、テキストの部分だけを差し替えることは、ビジュアル本ではよくあるように思います。 これまでやってきた図鑑も同様で、タイトルもサブタイトルも、本文も、写真に対する解説文も同じレイアウト内に収めます。本来であれば日本語の方が長くなってしまいますので、1対1で対応させるためには、漢字を使いたくなるのですが…。漢字が多くなり過ぎても読みにくいし、文が長くなり過ぎれば削らなくてはいけないせめぎ合いです。デザインを崩さず、情報を減らさず、英語と同じようにパンチラインが後ろにくるように訳していきました。 これから取り組んでみたいことや翻訳ジャンルはありますか? これまでを振り返ると、本が本を呼んできたと感じているので、今まで訳してきた延長線上でご縁があるものは何でもやっていきたいなと思います。鉄道の仕事は息子の鉄道好きに付き合っているうちにママ鉄になったことがきっかけですし、鉄道をやっているならと、飛行機の図鑑の仕事を声をかけていただいたのですが、飛行機は工学的な専門知識が必要になるためお断りしたら、飛行機の代わりにハチの図鑑の仕事になりました。恐竜の本も、私がツイッターで息子の話をよくしているので、男の子のお母さんということでどうですかとご連絡をいただいたものです。 それに加えて、出版翻訳を始めて約10年になり、これまではノンフィクションや実用書の仕事が多かったので、若い人向けのフィクションも訳せるようになりたいなと思って、ティーンエージャー向けのフィクションの翻訳の勉強会にも参加しています。 取材・文/中城邦子、構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集部)、写真/山本琢磨