女子陸上界のエース・田中希実を支えたランナー一家の絆。娘の才能を見守った父と歩んだ独自路線<RS of the Year 2024>
パリ五輪を筆頭に、多くのアスリートの活躍に心揺さぶられる1年となった2024年。『REAL SPORTS』は、アスリートやアスリートを支える人々の“リアル”を、そして結果や勝敗だけではないスポーツの本質的な価値や魅力を伝えてきた。そこで、2024年特に反響の多かった記事を振り返っていきたい。今回は、圧倒的な強さで陸上界に旋風を巻き起こした田中希実を支える父・健智さんのインタビューをお届けする。 (2024年1月9日公開) =================================
1000m、1500m、3000m、5000mと、陸上4種目で日本記録を持つ田中希実。その躍進をコーチとして支えてきたのは、自身も元実業団の選手だった父・健智(かつとし)さんだ。市民ランナーだった母・千洋さんを2度の北海道マラソン優勝に導いた指導力を武器に、高校卒業後から本格的にコーチとしてサポート。「日本陸上界のシステムから外れていた」という独自の練習スタイルで、その底知れないポテンシャルを引き出してきた。昨年4月にはプロ転向を宣言し、下半期は5000mで2度の記録更新を実現。圧倒的な強さで陸上界に旋風を巻き起こした。その強さの原点について、父・健智さんに話を聞いた。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=田中家)
「同じ道を歩んでもらいたいとは思っていなかった」
――希実選手は、元実業団ランナーの健智さんと、市民ランナーの母・千洋さんの間に生まれて環境と才能にも恵まれていたと思いますが、小さい頃は、どんなふうに接していたのですか? 田中:本人の人生なので、私たちと同じ道を歩んでもらいたいとは思っていなかったです。本人が感じるままに大きくなって将来やりたいことに手が届けばいいな、という思いで接していました。 ――お2人とも2時間30分を切る記録を持つ実力派ランナーですが、大会の時などは希実さんも同伴していたんですか? 田中:そうです。家内が市民ランナーとして全国の大会に出ていたので、同行してついていったり、地元のマラソン大会のロードレースに小学生の部で一緒に参加するなど、同じ大会に参加しながら時間を共有していました。 ――今でも、家族で大会に出場する機会はあるのですか? 田中:希実が3歳ぐらいの頃から、毎年夏場に子どもたちの夏休みと私たちの仕事の休暇を利用して、岐阜県の御嶽山で夏合宿をしていて、それは今も続いています。妹が大学の陸上部に入ってからはそのタイミングで一緒に行くことはできなくなりましたが、できる限り家族が揃う場は大切にしています。 ――5歳年下の希空(のあ)さんも、ご両親が陸上を勧めたわけではなく、自然に始められたのですか? 田中:そうですね。妹にも陸上競技の世界に入ることを強く勧めたことはないのですが、中学、高校、そして現在も大学で陸上部に所属して、長距離に取り組んでいます。彼女は小さい頃から筋力や体幹が強くて、元々の身体能力は希実よりも高く、資質としてはいいものを持っています。ただ、陸上は性格も含めていろんな要素が関係し合うので、トータルバランスが大切ですけれどね。
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