空飛ぶ円盤を中学生たちが捕獲した「介良事件」…現地を訪れた遠藤周作は何を感じたのか
1972年9月、UFO(未確認飛行物体)史に残る事件が起きた。高知市介良町(現・高知市介良)で、地元の中学生らが空飛ぶ円盤を発見し、捕まえて持って帰ったというのだ。この「介良事件」と呼ばれる騒動は、やがてある作家の耳に入り――。 「テレビで言うておった、空飛ぶ円盤を四国の中学生たちが拾うたと……」「信じられるか。そんな話」。作家の遠藤周作がエッセー集「ボクは好奇心のかたまり」に掲載した短編は、そんな会話から始まる。 遠藤は少年たちに話を聞くために高知へと赴くが、ありふれた介良町の街並みを見て、別の惑星に住む存在が興味を持つとは思えぬと、疑惑は深まる。
しかし、少年たちと面会し、真剣な表情で語る彼らの様子に、ウソやデタラメでないと確信していく。ただ、円盤の実物は見られなかった。少年たちが捕獲しては円盤が失踪するを繰り返し、ついには消えてしまったという。 遠藤は彼らの証言を基に、捕獲した状況や、高さ約10センチ、幅約20センチという小ぶりな円盤の大きさなどを詳細に書き残している。この記録を提示して読者に意見を募りながら、「こんな何でもわかったような世のなかでも、まだまだ珍妙にして不可解なことはあるもんだな」と、まとめている。 事件から50年以上が過ぎたが、介良地区を取材して少年たちの一人という男性(66)に話を聞くことができた。
「今でも手で持った感覚を覚えています。UFOを触ったのは世の中で私たちだけじゃないですか」と振り返る男性は、遠藤のことも記憶していた。「14歳の少年からすれば、『肌の色も黒くて目もきょろっとしたおじさんだな』と思うくらいでした。今なら驚きですが」と語る。 その事件がいま、にわかに注目を集めている。事件をモチーフにした映画「Miracle☆Summer」の制作が始まり、来春頃に完成予定だ。今夏には高知県内でロケも行われた。 監督を務める蔡融霖さん(30)は約5年前に介良事件を知った。「UFOを見ることはあっても捕まえることは珍しい。それに主人公が子どもたちというのもおもしろい」。元々SF作品に興味があったことなどから映画化に乗り出した。