「笑うアシカ」生みの親、シャチの大ジャンプに込める思い スマシー館長・中野良昭さん 一聞百見
さらに、水族館も展示するだけでは理解を得にくい時代になっている。ゆえに中野さんは「動物に敬意を表し、健全な環境での飼育は不可欠。その上で元気な動物たちをお客さんに見てもらい、能力や生態を知ってもらうことが求められている」と強調する。
一方、生き物の繁殖や保全も水族館の大きな役割だ。スマシーの開業目前だった今年2月14日には、ゴマフアザラシの繁殖に成功。「須磨生まれの第1号」として祝福ムードに包まれた。ペンギンは夏にかけて本来は繁殖期を迎えるが、「移ってきたばかりなので変化に慣れるまで今年は見送りたい」と来期に期待を寄せる。
スマシーは開業間もないが、前身の神戸市立須磨海浜水族園(スマスイ)、さらにその前身は昭和32年にオープンした市立須磨水族館にさかのぼる。この須磨水族館時代に同館で生まれた魚が今も大切に飼育されている。
それは北米原産の淡水魚「ロングノーズガー」。平均寿命は10~20年とされるが、これをはるかに超える長寿ぶりで、現在47歳。もともと名前はなかったが、いつしか飼育員や市民から「ガーじい」と親しまれるようになった。同種の魚の世界最高齢で、国内の水族館で繁殖した魚類としても最高齢を更新中で、阪神大震災も生き抜いたまさに〝須磨の主〟だ。
「スマシーはシャチやイルカが注目されがちだが、昭和からこの水族館を見届けてきたのはガーじいだけ。こういう個体を継承しているということも伝えていきたい」
およそ5メートルのシャチから数センチほどの小さな生物、そして植物まで、中野さんにとってはすべてが「主役」だ。(木ノ下めぐみ)
なかの・よしあき 昭和44年、東京都生まれ。62年、鴨川シーワールド入社。海棲哺乳類の飼育展示業務に長く携わり、トレーナーとしてステージにも立った。海獣展示三課課長を経て、神戸市立須磨海浜水族園園長。神戸須磨シーワールド開業準備で飼育部門の責任者を務め、今春同館館長(飼育支配人)に就任した。