「笑うアシカ」生みの親、シャチの大ジャンプに込める思い スマシー館長・中野良昭さん 一聞百見
通報内容から体長1メートル程度のオットセイだろうと思いつつ向かうと、まさかのトド。「トドは後にも先にもその一度だけ。優に2メートルはあり、持参したオリでは入らず、翌日出直しました」
成功の裏にあるのは数々の失敗。これらの経験が中野さん率いる神戸須磨シーワールドの集大成となっている。
■生き物すべてが主役
鴨川シーワールドで、アシカを笑わせる国内の水族館としては前人未到の成果を挙げた中野さん。館長を務めるスマシーについても「スタッフたちのチャレンジを見てもらう場としても注目してほしいですね」と力を込める。
多くの水生生物を展示する「アクアライブ」棟の2~3階にある「ローカルライフ」。「水の一生」をテーマに六甲水系の河川や瀬戸内海の豊かな自然を再現し、それぞれの環境で過ごす生き物たちの生態を学べるフロアだ。
その一角に「チャレンジ水槽」と銘打つ4つの展示がある。瀬戸内海の原風景を、館内にいながらにして本来の姿に近い状態で展示するという難しい課題に飼育員たちが挑んでいる。
例えば、国内最大規模のアマモの水槽。青々と茂る海草の森は魚たちにとって欠かせないすみかであり、気候変動の緩和にも大きな役割を果たす存在だが、全国的に大きく数を減らしている。生育条件が難しく枯れやすいため、水族館では飼育員泣かせの植物とされているが、この水槽では展示と保全活動の両立を目指しているという。
このほか、水温が上がると砂中に潜り、夏眠をする性質をもつイカナゴの年間展示や縄張り意識が強いタコの多頭飼育のほか、水槽内に海流を作り出し鳴門の渦潮の中で生き物がどう過ごすかを見てもらう展示も。これらには「生き物をただ見てもらうだけでなく、研究や教育普及的な役割を水族館が担う」といった使命感もにじむ。
これまで生き物の持つ能力を発揮し、観客を惹(ひ)きつけるステージを演出することに心血を注いできた中野さん。スマシーで研究や教育的要素の展示に力点を置く理由は、「水族館の役割が大きく変わってきた」との思いが強くなっているからだ。