「笑うアシカ」生みの親、シャチの大ジャンプに込める思い スマシー館長・中野良昭さん 一聞百見
当時は新型コロナウイルスが猛威を振るい、スマスイも臨時休館を余儀なくされた時期。「生き物の素晴らしい能力、大切な命を知ってもらうために飼育しているのに、誰にも見てもらえない。子供の歓声が一切聞こえない館内は本当に寂しく残念でした」と振り返る。
市民に親しまれた地域の水族館の良さを継承するとともに、神戸観光の起爆剤として国内外から観光客を呼び集めるスポットへと生まれ変わったスマシー。新たな取り組みの一つは、楽しみながら学べる「エデュテインメント」の要素を取り入れたことだ。
例えば「オルカラボ」は、鴨川と名古屋港水族館で飼育されていた雄のシャチ「ビンゴ」の骨格標本をはじめ、最新の研究成果や映像などを集約させた日本初の施設だという。
「まだまだ未知の部分も多いシャチのすべてを知ってほしい。そのうえでパフォーマンスを見れば、きっとまた違って見えてくるはず」と語る中野さん。海獣トレーナーの第一人者から水族館の指揮官へ。新たに誕生したスマシーをどんな魅力ある水族館に導くのだろうか。
■トレーナー時代の難題
「すごいアップになるぞぉ」「笑おう」。カメラを向けられていることに気づいた2頭のアシカが、ニコーッと口角を上げ、歯を見せて笑顔を浮かべる-。平成初期、カメラのテレビコマーシャルに登場した「笑うアシカ」。鴨川シーワールドの代名詞ともいえるこのパフォーマンスが、大きく注目を集め、街角の広告などにも起用。この笑うアシカの生みの親こそが中野さんだった。
水族館に取材が殺到するなどアシカたちは一躍「ときの人」ならぬ「ときのアシカ」に。「俺が教えたんだぞ、と誇らしいような不思議な気持ちでしたね」と当時を振り返る。
水生生物との出会いは小学生のころ。熱帯魚ブームや海釣りで魚に親しんでいたこともあり、大きさや形状もさまざまな水槽できらめく魚たちの多様さにのめり込んだ。「水族館の魚類展示をやりたい」。高校卒業後、鴨川シーワールドで魚類担当の職に就くも、わずか10カ月でアシカやアザラシ、ペンギンなどの飼育やトレーニングを行う海獣展示三課へ異動に。