「ひとりでは無理だと思います」4大会連続五輪出場なし…低迷中の女子ロングスプリント界“最古の日本記録保持者”が語る「世界への壁を崩すには」
陸上競技では近年、用具の進化もあり「不滅」と言われた記録も次々に更新されている。そんな中で、今なお燦然と輝く記録もある。その1つが女子400mの日本記録だ。2008年に千葉麻美(旧姓・丹野)が樹立した51秒75は、16年もの月日が流れたいまも破られず、女子トラック種目においては最古の日本記録となっている。千葉以降、日本の女子ロングスプリント界が低迷期にある中で、世界の舞台で戦うために必要なことは何なのだろうか。《全3回の3回目/最初から読む》 【写真】「えっ、何頭身なの…?」400mで女子トラック“最古の日本記録”を持つ千葉麻美さん…現役時代の長~い手足とバッキバキの腹筋&引退から8年、39歳になった現在と高校時代の姿も。この記事の写真を見る。(50枚超) 「女子400mで史上初の51秒台」「世界大会で史上初の準決勝進出」「44年ぶりのオリンピック出場」――千葉麻美(旧姓・丹野)は数々の快挙を成し遂げ、日本の女子ロングスプリントの歴史を切り開いてきた。
「女子短距離も世界で戦える」その証明のために
しかしながら、どれだけ快挙を重ねようと、千葉は現状に甘んじることなく、その先を見据えていた。それには、こんな思いがあったからだ。 「ただただ負けず嫌いなので、『日本の女子の短距離は世界で勝負できない』と言われ続けてきたことが本当に悔しかったです。男子は当時からリレーでメダルを狙えるところにいたので、なおさら女子との比較をされました。『いつかは女子も……』という思いがありました」 「日本の女子短距離は弱い」――そんなレッテルを跳ね除けるために努力を重ねた。 千葉をはじめOGを含む福島大勢が日本女子ロングスプリントを牽引していた当時、女子100m、200mのショートスプリントを席巻していたのが2006年に設立された北海道ハイテクACだった。 100m、200mの日本記録保持者の福島千里や100mハードルの寺田明日香、世界選手権大阪大会代表の北風沙織といった選手が所属していた強豪チームだ。種目は違えど、福島大勢とはお互いに刺激し合う存在だったという。 「福島大と北海道ハイテクACさんとの繋がりはけっこうあって、短距離の合宿に行くと、福島さんの練習に混ぜてもらうこともありました。逆に、福島さんが私たちの練習に来て一緒に300m走をやったり、ウエイトなどのフィジカルトレーニングの情報を交換したりもしました。本当に仲が良かったです。種目は違いますが、『女子の短距離をどうにかしたい』という思いは同じでした」 オリンピックや世界選手権に行くと福島と同部屋になることが多かった。女子短距離の個人種目で世界大会に出られるのが千葉と福島ぐらいしかいなかったという事情もあったが、福島のモチベーションの高さに大きな刺激を受けたという。 千葉は2008年に福島大を卒業してからも、ナチュリルと東邦銀行で川本和久監督の指導を受け、2010年に結婚、翌年に出産を経てからも競技を続けた。 「結婚して、出産をして競技に戻るというのも、自分の挑戦したいことの一つでした。それは海外の影響が大きかったです。出産を経て現役に復帰し、オリンピックでメダルを取る選手を見てきましたから。 自分の人生プランを考えた時に、結婚もしたいし、出産もしたいし、陸上もまだやりたいという思いがありました。欲張りなので……(笑)。それに、自分を変えたいという気持ちもありました。でも、難しかったですね」 出産後、現役復帰を果たしたものの、体力を戻すだけで3~4年かかった。当然、2012年のロンドン・オリンピックには間に合わなかった。 「オリンピックを一つの区切りと考えていたので、挑戦できても、次のオリンピックまでかなと思っていました」 それでも2015年の世界選手権北京大会には4×400mリレーのメンバーとして出場し日本記録を打ち立てた。だが、個人種目ではなかなか国内でも勝つことができず、徐々に世界の舞台は遠のいていった。 そして、千葉は2016年にスパイクを脱ぐ決断をした。
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