福島第一原発の処理水放出から1年、禁輸措置続く中国で北海道のイクラにホタテ…“闇流通”のナゾ
■禁輸措置後も海を渡っていた、日本のイクラ
しかし、裏取引の実態は、それだけにとどまらなかった。 水産品のほか、ワサビや、しょうゆなどが商品棚に並び、刺し身や寿司を連想させる「B店」。以前は北海道産のウニを販売していたが、今は政府の検閲が厳しく、海鮮市場の管理者も目を光らせているという。 日本の水産品を購入できないかと店員に聞くと、最初は「日本産は売っていない」と言い張っていた。しかし、質問を続けると、上司とみられる人物と電話し始めた。そして、「向こうの倉庫に置いてあるので取ってくるよ」と店を離れたのだ。 10分後、店に戻ってきた店員が手にしていたのは、こちらもイクラ。“北海道産”と書かれている。しかも、驚くべきことに、その入荷時期は今年1月、つまり輸入禁止措置後だというのだ。「ほかの日本の水産品が欲しければ、倉庫から持ってくる」と言い、さらには「新鮮な魚がいいなら、業者に掛け合う」と話した。
■“口裏合わせ”のホッキ貝「日本産とは言えない」
禁輸措置後の今も中国に流通していた日本の魚。厳しい当局の目をかいくぐり、一体どうやって輸入しているのか。取材を続けると、北京で営業している中国人オーナーの日本料理店で、その答えが明らかになった。 中国の富裕層で、カウンター席が連日、混み合う日本料理店。刺し身の盛り合わせや寿司が入った「おまかせコース」が人気だ。処理水放出以前は、北海道のウニやサーモンがコース内容に含まれていたが、そのいずれも中国産に切り替わったという。 メニュー表にも、その変化は表れていた。乱雑に貼られた意味深なシール。まじまじと見つめると、シールの下に隠された「北海道」や「日本直輸」の文字が、うっすらと見えた。日本産をうたう文字を隠すことで、日本の魚は提供していないとアピールしているのだ。 しかし、ホッキ貝の握り寿司の産地を聞いたところ、その説明がぎこちない。日本産か問うと“ロシア産”と繰り返す。その後も尋ね続けると、ついに「みんなロシア産と口裏を合わせているだけだ。業者は産地をひそかに教えてくれるんだけどね」と、まさかの“口裏合わせの実態”を暴露した。そして、「北海道産だと思う。本当は日本産と言えないんだ」と漏らし、さらには「北朝鮮から運ばれた」と不可解な説明を始めたのだ。 聞けば、北海道産のホッキ貝は北朝鮮経由で運ばれ、そこでロシア産のラベルに貼り替えられてから、中国に入ってきているという。 今が旬の日本のイサキやアジについても、韓国経由で手に入っているとのこと。 日本円で1万8000円もするキンキの塩焼きにおいては「今年になってから入荷した新鮮なものだ」と日本産をあっさり認め、「日本から直接、空輸している」と闇流通の実態を明かしたのだ。 水産品販売者や日本料理店が、輸入停止以降も日本の魚を欲しがる背景には、中国で根強い“日本食人気”がある。富裕層を中心に、高い金額を払ってでも、日本の魚を食べることにステータスを感じる中国人は少なくなく、ひと口食べただけで日本の魚か、そうではないか、違いが分かる口の肥えた客もいるという。 帰り際に「秋には日本産のサンマも提供できるだろう」と話す板前。 後日、この店に電話すると「当店で日本産の魚は食べられない。処理水の放出以降は禁止されている」と繰り返した。