「五感に響く」オルゴール、耳の不自由な人も触れて感じる…認知症の高齢者には「まるで音の点滴のようだ」
私たちの世界は音楽をはじめ様々な音や声であふれ、それにより癒やしや喜びを感じることもあります。思いを込めて音色や声を響かせる人たちを紹介します。 【写真】振動楽器に手を置くバイオベルの岩満社長
昨年12月中旬、宮崎県えびの市の飯野地区コミュニティセンターに優しいオルゴールの音色が響いていた。集まった10人余りの聴覚障害者が順番に箱形のオルゴールの表面を手で触れる。「音の振動が感じられた」などとうれしそうな声が次々に上がった。
この日開かれていたのは聴覚障害者ら向けのオルゴールの体験会。木製オルゴールの製作・販売を手がける「バイオベル」(宮崎市神宮東)や聴覚障害者の支援者らが企画した。参加者が触れていたのはバイオベル社が開発した「振動楽器」(高さ7センチ、幅30センチ、奥行き21センチ)。分かりやすく言えば、「音を体で感じられるオルゴール」だ。
木製の箱形の内部は空洞になっており、中に高さ数センチの小さな円柱がある。こうした構造により振動が箱の表面などに伝わり、手で触れた障害者も音を感じられる仕組みだ。バイオリンなどの弦楽器の内部に「魂柱」と呼ばれる小さな柱があることをヒントにしたもので、オルゴールの音色が豊かになる効果も狙っているという。
補聴器をつけて生活する宮崎市の井上徳子さんは「振動を感じられ、リラックスできた」と笑顔で話した。「オルゴールの音が聞こえた」とうれしそうに話す聴覚障害者もいた。
1990年にバイオベル社を設立した同県日南市出身の岩満国吉社長(83)は元経営コンサルタント。84年頃、ある会社から「高品質のオルゴールを探してほしい」と頼まれたのをきっかけに、オルゴールに興味を持つようになった。
「オルゴールは生の楽器に近い響きを持つ。よい演奏を聴くと人は心地よく、元気になることもある。ならば楽器の音に近い製品を作ればいつでも聴け、いつでも心地よくなれる」
そう思い、「五感に響く音」を出すオルゴールを目指して開発を続けてきた。シリンダーを交換することで色々な曲を楽しめるオルゴールなど、100を超える製品を生み出してきた。