<独占インタビュー1>羽根田が語るカヌー銅メダルの真実
好青年である。いや29歳の銅メダリストをつかまえて好青年とは失礼か。 だが、個性派タレントのマツコ・デラックスに「可愛い」「ハネタク」と命名された甘いマスクに、論理的な受け答えと、175cm、70kgながら筋肉で覆われた強靭な肉体。おまけにぶれない芯まであるとなると、世の女性たちは、この独身アスリートを放ってはおかない。 「ほぼ、毎日、メッセージをもらいますね」 リオ五輪後にフェイスブックに次から次へと若い女性から熟年女性までメッセージが舞い込むというが、それもよくわかる。 だが、普段はスリッパ履きで着の身着のまま自分を飾ることもない。 そんな不思議な人が日本の歴史上だけでなくアジア史上初めて不毛だったカヌーに銅メダルをもたらした。スラローム、カナディアンシングルという種目である。 「今でも、ふとした瞬間に信じられない気持ちに襲われます。ロンドン五輪が終わった頃から、何回も五輪に出てメダルを獲得するという夢を見ていました。金メダルを取った夢も、日によって、獲得するメダルの色は違っていたんですが、その度に朝起きて、『ああ夢か』と現実にかえってがっかりしていました。今も、寝る前のふとした瞬間に『今回も夢じゃないか』という気持ちに襲われることがあるんです」 羽根田卓也は、そう言って笑う。 壮絶な話である。7位入賞したロンドン五輪が終わってから、この種の夢を見るようになったというが、それほど、人生のすべてをカヌーに捧げて一心に思いつめてきたのだ。それもスロバキアに単身拠を移してから10年にわたってである。 そして何度も五輪でのメダル獲得の夢を見たが、羽根田は決して「夢だった」とは言わない。 「目標です。夢とは実現できるかどうかわからないものでしょう」 リオから帰国後にテレビ出演や取材が殺到。御伽ばなしではないが、一夜にしてその置かれた立場が変わった人に、所属先で資金難に悩む羽根田の“救世主”となったミキハウスの協力を得て貴重なインタビュー機会を得ることができた。約60分に至るロングインタビュー。5回に分けて出来る限り全文を掲載したい。