窓から家に入る人 普通の人には思いつかない、窓が玄関になっている理由
お互いにやわらかな頭で
介護の現場で出会った人から「幸せになる方法」を教わった、と語る介護福祉士でイラストレーターの高橋恵子さん。今度はあなたに、イラストと言葉でメッセージを届けます。 【本編を読む】次のイラストは 何が危ない?「僕が入浴をためらう理由」
脱衣場から湯気もうもうの浴室に、 自分の荷物をすべて持ちこもうとする。 それは一見、認知症がある人の問題行動に見えるかもしれませんが、 その行動の理由を知れば、合点がいくでしょう。 けれど、ご本人の切実なその理由を知ったとしても、 「気持ちはわかるけれども、 荷物がぬれるかもしれないし、 脱いだ服は脱衣場に置くのが自然だから、やめてほしい」 と、なだめようとする心が誰にだってつい働いてしまいがちです。 しかしそれこそが、介護をするときに思いの外、 枷(かせ)になり、私もそのはざまで悩んできました。 「食事は箸でとらなければならない」 「家から外に出るときは、必ず玄関を使うべし」 「衣服はタンスにしまうのが当然」 このように私たちは、普段の生活に 「こうあるべきだ」という様式を、こと細かに作っています。 けれど、認知症のある人との生活のなかでは、 今までの在り方をゆるめるような、 新しい生活様式に触れる機会がたびたび、訪れます。 食事が手づかみになったこともあったし、 窓が玄関になったこともあったし、 こたつが衣服置き場になったこともありました。 介助者が悩むべきは、 どうしたら、ご本人、そして共にいる人にとって、 心地いい生活を作っていけるか。 そのとき、これまでにできたこだわりが邪魔をしないように、 お互いにやわらかな頭で、 ときには新しいやり方を選びたいものです。 《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
高橋恵子