井上尚弥の衝撃2回TKO劇の全舞台裏…敗れたドネアは現役続行可能性を示唆?
ゴングが鳴り追撃のできなかったインターバル。 井上は、父の真吾トレーナーにこう告げた。 「2ラウンドは(勝負に)行かないから」 終了間際のダウンであり、「どれだけのダメージがあるのかがさほどわからなかった」というリスクマネジメントと、「性格上(勝負に)行ってしまうので、自分を落ち着かせるためにあえて口にした」のが、その理由だった。 「いっちゃいましたけどね(笑)」 その言葉通り、井上は、左ジャブを軸にした基本のボクシングから入った。 「ドネアのカウンターに気をつけながら冷静に慎重に攻めた」 その中で「足がふらついていた」というドネアのダメージを見逃さない。リング上で匂いを嗅ぎ分ける能力こそが、モンスターに備わっている特長のひとつ。自らにGOサインを出して、強烈な左フックを何発もお見舞いしドネアはぐらつき足がよろけた。 「キャリア最大の試合」と位置づけてきたレジェンドは、それでも耐えるが、井上は怒涛のラッシュ。最後は、ドネアのお株を奪う左フックでのフィニッシュ。ドネアはロープに体をぶつけて仰向けになって倒れた。ドネアは立ってきたが、もうレフェリーはカウントを取らずに試合をストップした。 「左フックは得意なパンチではあるけれど、こだわりはない。でも、最初にやられたので、左でお返ししたい、はあったかな」 井上はコーナーを駆け上がって咆哮した。 「凄い。ビックリだね。思わず夢じゃないか、と自分のほっぺたをつねった。ベストバウトだね」 八重樫東のラストマッチでタオルを投げるタイミングを逡巡して以来、ジャージを着てセコンドに就くことを辞めていた大橋会長が、背広姿で思わずリングに駆け上がっていた。 大橋会長は「不安があった。苦戦するかもと思っていたから、我を忘れてリングに上がってしまった」と舞台裏を明かす。 「実は完調でなかった」 試合1か月ほど前に怪我があったのだ。 真吾トレーナーも「1か月前くらいに故障があった。痛み止めの注射を打たねば練習ができないくらいの怪我だった。調子は悪くなかったが、そこに不安はあった」と言う。 どこをどう怪我したかについての詳細は伏せたが、かなりの怪我だったのだろう。 開催が危ぶまれる場外でのトラブルは、まだあった。ドネアが契約するプロモート会社「プロべラム」に海外での問題が発生し、ドネアがリングに立てない可能性が浮上したのだ。結局、それらはすべて解決したが、新型コロナの問題もあり、ストレスを感じた大橋会長が、体調を崩すほど。また試合直前にはWBCルールを採用して行われる予定だった公開採点にIBFから物言いがつき、急転、見送りとなった。 大橋会長は「一度発表したものを変えるのはどうか?」と食い下がったが、井上は「公開採点はない方がいいですよ」と気にしなかったという。 結果的には、4回終了後に発表されるだった公開採点など関係なかったが、いくつものハードルを乗り越え実現した日本初の3団体統一戦だった。