トランプ大統領返り咲き後の暗号資産規制
2024年11月5日に行われた米国の大統領選挙では共和党のドナルド・トランプ候補が勝利し、1893年に2期目の大統領に就任したスティーブン・グロバー・クリーブランド以来となる大統領職への返り咲きを果たすこととなった。トランプ氏の大統領再任は、様々な分野における米国政府の政策に大きな変化をもたらすことが予想されているが、ここではビットコインやイーサリアムなどの暗号資産をめぐる規制への影響を論じることにしたい。
批判されるSECの暗号資産規制
米国では、証券市場の規制・監督機関である証券取引委員会(SEC)が、暗号資産に対してハウイ基準と呼ばれる判例法理を適用し、ICO(initial coin offering)によって組成されたデジタル・トークンや一部のNFT(non-fungible token)などの発行が、連邦証券法の規制に服する証券の一つである「投資契約」の無登録募集にあたると主張する訴訟を相次いで提起してきた。 その結果、多くの暗号資産プロジェクトが頓挫したり、暗号資産を組成した者が多額の民事制裁金の支払いを求められたりするという事態に陥っている。SECは、どのような暗号資産が証券であるかを明確に示す規則やガイドラインを設けているわけではない。このようなSECの規制手法は、予測可能性を低下させ暗号資産ビジネスの展開を不当に妨げる「エンフォースメントによる規制(regulation by enforcement)」だという批判にさらされている(注1)。
SEC内からの異論
SECは、主に業界関係者から投げかけられる批判に対しては、ハウイ基準という確立された判例法理を個々の事案に適用しているに過ぎず、予測可能性を欠き法的安定性を損なうエンフォースメントによる規制だという指摘は当たらないと反論してきた(注2)。しかし、現在の規制手法に対してはSECの内部からも否定的な意見が出されている。 SECの委員会としての決定は、ゲイリー・ゲンスラー委員長以下5名の委員の多数決によることを原則とする。最近の暗号資産規制をめぐるSECの議決では、早くから暗号資産業界に対する理解を示し「クリプトの母(Crypto Mom)」の異名をとるヘスター・ピアース委員と2022年6月に就任したマーク・ウエダ委員の2人が反対に回り、3対2の多数決で決定が行われることが多い。 SECは独立行政委員会であり、大統領に直属する省庁とは性質を異にする行政機関である。SECの委員は、議会上院の承認を得て大統領によって指名されるが、政治的中立性を確保するために4名以上の委員が同じ政党に属していてはならないとされている(1934年証券取引所法4条(a)項)。民主党のジョー・バイデン大統領による指名を受けて就任したゲンスラー現委員長は、民主党所属であり、現在の委員会の構成は、委員長を含む3名の委員が民主党所属、2名の委員が共和党所属というものである。 近年、米国の社会では、党派的な分断が深刻化していると指摘されることが多いが、SECという組織も決してその例外ではない。前述の暗号資産規制をめぐるSECの議決で反対に回ることが多いピアース委員とウエダ委員は、ともに共和党所属であり、所属政党の違いによって議案に対する賛否が分かれる結果となっている。