井上尚弥、次戦はロマゴンではなくコンセプシオンとの統一戦へ
WBO世界スーパーフライ級王者、井上尚弥(23、大橋)が4日、故郷の神奈川県座間市で行われた3度目の防衛戦で同級1位のペッチバンボーン・ゴーキャットジム(31、タイ)を10ラウンド3分3秒にKOで下した。3週間前に腰を痛めていたという井上尚は、試合中にも右拳も痛める二重のハンディ。試練を乗り越え、KOで防衛に成功したのは王者の非凡さだったが、「こんなんじゃビッグマッチなどと言ってられない」と本人は大反省。 井上と大橋会長は、緊急渡米して日本時間の11日にロスで行われる無敗のローマン・ゴンザレス対カルロス・クアドラスとのWBC世界スーパーフライ級タイトル戦を観戦、その勝者との交渉を開始するという。ただ、年末に予定されている4度目の防衛戦は、河野公平を判定で下してWBA同級王座を統一したルイス・コンセプシオン(パナマ)との統一戦がターゲットになる。
「ジャブが速かった。見たことのないようなスピードだった」 試合後、タイの挑戦者が小さな声で言った。 何ラウンドで、どんな倒し方をするのか? この試合のテーマは、そこのはずだった。 チャンピオンは教科書に出てくるような左ジャブで、試合の主導権を握り、痛める危険性のある右拳は、様子を見るかのように、ボディから使い、単発で終わらずツー、スリーの瞬きする間もないコンビネーションでまとめて、挑戦者だけでなく会場全体を“ほおー”という感嘆符で包みこんだ。 左ジャブに上下の揺さぶり。堅くガードを固めたタイ人に、ほころびが出てくるのも時間の問題だった。 だが、井上尚のピッチが一向に上がらない。4ラウンドに入ると、右構えから左構えへスイッチをして見せた。「カードが堅かったので、どうすれば崩れるかを考えて、足を使ったり、接近戦をやってみたりした」。井上の説明は、こうだったが、明らかに右のパンチが出なくなった。5ラウンドには集中力を欠き、ロープ際で横を向いた時に、したたかな挑戦者に2発ヒットされ、右足の付け根に反則のブローも浴びた。6ラウンドには、痛めたナックル部分を避けるようにパンチの角度を変えて連打したが、それではダメージを与えることはできない。8ラウンドからは、もう腰が浮いてしまっていた。 実は、井上尚は2つのハンディを背負っていた。 試合後、大橋会長が「言い訳は尚弥の本意じゃないだろうが」とした上で暴露した。 「3週間前に腰を痛めてスパーができなくなった。調子が驚くほど良かったが、練習をやりすぎたのかもしれない。試合ではずっと手打ちになっていた」。そして序盤で古傷である右拳をまた痛めた。 5月のダビド・カルモアとの防衛戦でも試合中に右、左と拳を痛め判定にもつれこんでいた。 タイ人は「5ラウンドで(右拳を痛めたことに)気がついた」という。 ポイントでは圧勝していた。9ラウンドからは、足を使って逃げ切り体勢。それも裏事情を考えれば仕方がなかったが、10ラウンドにタイ人が、強引に前に出てインファイトを仕掛けてきた。 「ポイントで負けていたのはわかっていた。KOでないと勝てないと思ったが、最後まで井上のジャブが邪魔になった」。捨て身の攻撃である。不用意に井上が、2、3発パンチを浴びると闘争心に火がついた。 「倒してやろうと意識した」 痛めた拳に意思の力で麻酔をかけるようにラッシュ。最後は右ストレートを2発。よろけるように膝からダウンして尻餅をついた挑戦者は、立ち上がったが、もう前を向くことができなかった。