井上尚弥、次戦はロマゴンではなくコンセプシオンとの統一戦へ
大橋会長が言う。 「いちかばちかで来た相手を受け止めてテンカウントを聞かせた。プロ魂を見せてもらった。ポイント差も開き、結果、KOとなったが、結果以上に苦しい試合だった」 KO勝利にも、井上自身、そして陣営のセコンド陣の誰一人として笑顔がなく。父で専属トレーナの井上真吾さんはリングに上がってこなかった。それほど絶対絶命のピンチだったのである。 解説席に座っていたロンドン五輪金メダリストで現ミドル級世界ランク上位の村田諒太が言う。 「自力のレベル、ボクシングの幅が違っていた。アクシデントがあっても、リスクを負わずに倒しにいって、それができるのは、よほどのレベルの差がないとできない。改めて強さを証明した」 この男の論理的解説に異論を挟む余地はなかった。 だが、全米のシビアなマーケットは「拳や腰を痛めていたのに凄い」とは評価してくれない。井上尚が、直接、そのリングサイドに乗り込むローマン・ゴンザレスvsカルロス・クアドラスの勝者との頂上決戦に挑むには、歴戦の名王者をあっという間に沈めたオマール・ナルバエス戦、ガードの上から打って破壊したワルリト・パレナス戦の衝撃的なKOシーンをもう一度、見せつけておかねばならない。 ロマゴンは、この試合でHBOとの契約が切れるが、インパクトのある勝ち方をすれば、大型の再契約が結ばれることが必至で、マッチメイクをHBOが主導するようになれば、なおさら、井上尚の商品価値をアップしておく必要がある。今のままでは現実として、まだ第一候補になるには苦しい。 大橋会長の構想では、年末に予定されている次のV4戦には、河野に圧勝したコンセプシオンとのWBO、WBAの統一戦が予定されている。しかし、そのコンセプシオンは「井上って誰だ? 試合の映像も見たことがないからコメントのしようがない」と、井上尚の存在を知らなかった。 「今日の出来がすべて。もっともっと練習しなければならないと思う」 井上尚は、そう語った。 コンディションと拳のアクシデントさえなければ、おそらく井上は、他のチャンピオンとは一線を引くような衝撃なKOシーンを見せてくれただろう。しかし「7、8割で打てば大丈夫。怪我しないように戦える」と、語っていた拳の怪我防止対策の効果は出なかった。ハードパンチャーが背負う永遠の宿命とも言えるが、こうなってくると、ロマゴンとの夢対決を語る前に、井上がいかに万全な状態で戦えるかの“内なる戦い”をどう克服するかが最大の壁になってくる。 (文責・本郷陽一/スポーツタイムズ通信社)