ノーベル賞「生理学・医学賞」2018年は誰の手に? 日本科学未来館が予想
2018年ノーベル賞の発表が、10月1日の生理学・医学賞を皮切りに始まります。2日に物理学賞、3日は化学賞と自然科学系3賞が発表され、その後、5日の平和賞、8日の経済学賞と続きます(今年は文学賞の発表はありません)。私たち日本科学未来館は、「ノーベル賞予想」として毎年、その年の自然科学系3賞を受賞するにふさわしいと考える研究テーマと研究者を紹介しています。 【写真】10月1日からノーベル賞発表 日本人の受賞は? 日本科学未来館が予想 生理学・医学賞は、主に3つの分野「生命の基礎メカニズムの解明」、「生命科学の研究に欠かせない技術の開発」、「病気の解明や治療法の開発」に分類されます。一昨年は、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が、「オートファジー(自食作用)の仕組みの発見」によって受賞し、日本中が沸きました。昨年は、私たちも持つ体内時計である概日時計、その分子メカニズムを発見した研究が受賞しました。どちらも生命の基礎メカニズムを解明した研究です。今年はどの分野の研究が受賞するのでしょうか。科学コミュニケーターが予想する3つの研究テーマを紹介します。
■腸内細菌叢の生理的・機能的研究
私たちのお腹の中には、数百兆個(重さにして1~2キロ)ともいわれる細菌がすみ、腸内細菌叢(さいきんそう)を形成しています。私たちの体の細胞が約40兆個ですので、それよりも何倍も多い数ということになります。 最近、「腸内細菌」という言葉は身近になりつつありますが、その腸内細菌が何者で、何をしているかについては、現段階で分かっていることはごく一部です。なぜなら、腸内細菌の研究はとっても難しいから。(1)数と種類が膨大すぎる、(2)体外で育て増やすことが難しい、(3)腸内細菌同士や私たちの体との関係が複雑――といった理由によります。ゴードン博士は、腸内細菌を体外で増やさずに、腸内細菌叢をまるごと解析できる「メタゲノム解析」という手法を編み出し、腸内細菌叢の研究を大きく発展させました。
メタゲノム解析とは、口腔内や腸内などの細菌叢を、丸ごと解析する研究手法です。 腸内細菌叢の場合、まず糞便から腸内細菌叢のDNA(さまざまな細菌のDNAが混ざったもの)を取り出し、どのような遺伝子が含まれているかを、全てのDNAをまとめて解析します。それによって、腸内細菌叢にどんな種類、どんな機能を持った細菌が多く生息しているか、どのような遺伝子が多く含まれているかを調べることができます。 メタゲノム解析によって、腸内細菌叢内の細菌種のバランスや含まれる遺伝子の割合が分かるようになったことから、腸内細菌同士や腸内細菌と宿主(例えば、ヒトやマウスなど)の相互作用も解析可能になりました。例えばゴードン博士は、同じ親から生まれた遺伝性肥満マウスと正常体重マウスの腸内細菌叢を比較しました。その結果、肥満マウスの腸内細菌叢は、通常ではマウスが消化できない多糖類を分解するための遺伝子を多く含んでおり、さらに肥満マウスの糞便が含むカロリーも少ないことが分かりました。 つまり、肥満マウスは正常マウスと同じ餌を同じ量を食べても、腸内細菌叢の違いによって、餌からより多くのカロリーを摂取してしまう可能性が示されました。さらに腸内細菌のいないマウスに肥満マウスからの腸内細菌と正常マウスからの腸内細菌を移植すると、肥満マウス由来の移植を受けたマウスは体脂肪率が高くなってしまいました。腸内細菌叢の影響が肥満に関わっていたのです。 メタゲノム解析が開発されたことによって、腸内細菌の研究は世界中で活性化し、これまで原因がはっきりと分かっていなかった数多くの疾患に、腸内細菌叢が関わっているという報告が次々となされています。腸内細菌研究は、まだ解明されていない疾患の解明や治療に新しい光をもたらすであろうと、大きな期待を寄せられているのです。 ◎予想=科学コミュニケーター・山川栞