ノーベル賞「生理学・医学賞」2018年は誰の手に? 日本科学未来館が予想
■適応免疫に必須なリンパ球と器官の発見
普段そう意識することはないかもしれませんが、私たちの体は免疫によって守られています。免疫とは、自己(自分の体)と非自己(病原体などの外来異物)とを見分けて、非自己を排除する仕組みのことです。 私たちが持つ免疫には、「自然免疫」と「適応免疫(獲得免疫)」があります。自然免疫は、私たちの体に生まれつき備わっている免疫で、適応免疫は、病原体や異物に接することによって初めて獲得される免疫です。この2つのシステムが密接に協力し合うことで、私たちの免疫は働いています。 獲得免疫が異物を攻撃する方法は2つあります。1つは、B細胞(Bリンパ球)が持つ「抗体」という飛び道具を使う方法。もう1つは、キラーT細胞(Tリンパ球)が異物に侵入された細胞を丸ごと破壊する方法です。 ミラー博士はマウスで、クーパー博士はニワトリやヒトなどでの研究で、このBリンパ球やTリンパ球を発見し、その役割を明らかにしました。加えて、Tリンパ球が、それまで謎の器官とされていた胸腺で成熟し一人前になることも発見しました。
ミラー博士とクーパー博士の研究は、「これが載っていない生物の教科書はない」というほどの業績です。これらをきっかけに、抗体の性質に関する研究を中心とした「血清学」から、1960年代以降は、Tリンパ球の研究を中心とした「免疫学」の時代へと移行しました。その後、この分野は大きく発展し、アレルギーや自己免疫疾患などの発症の仕組みの理解が進み、その治療薬なども開発されました。特に最近は、抗体や免疫細胞を活用することで、がんの治療に大きな効果を持つ治療法も開発されています。 免疫学の基礎研究・応用研究の基盤となった2氏の研究は、その後の医療の発展に大きく貢献したのです。 ◎予想=科学コミュニケーター・毛利亮子
■細胞の栄養状態のセンサーであるmTORの発見
私たち人間の体は細胞でできています。「mTOR(エムトア)」は、タンパク質の一つで、その栄養となるアミノ酸の量を見張るセンサーです。さらに、アミノ酸がたくさんある時に「細胞を大きくしよう」とか「増やそう」という命令を出す司令塔でもあります。 「細胞が増えるって大事なことなの?」と感じるかもしれません。例えば、赤ちゃんが大人になっていく様子をイメージしてみてください。「あの子の細胞、増えているなぁ」って思いませんか。そうでなくても、私たちの皮膚や胃壁の細胞が分裂して、日々置き換わっている話を聞いたことがあるかもしれません。このように、私たちの体では日夜細胞が分裂しており、それがうまくコントロールされることによって体が維持されています。 では、栄養が不足している時、細胞はどうしているのでしょうか。実は、細胞は自分自身を分解することでアミノ酸の不足を補っています。この「オートファジー」と呼ばれる仕組みの発見により、2016年に東工大の大隅良典博士がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。mTORは、このアミノ酸の自給自足の仕組みもコントロールしています。