海の竜巻はどれくらい危険なのか? 豪華ヨットがおそらく沈没、専門家に聞いた
船にとってどれくらい危険なのか?
海上竜巻に伴う風は秒速25メートルに達することもあるが、通常、海上竜巻は秒速10メートル以下で移動し、短時間で消滅し、被害が大きくなることはない。「通常、1つの地点に影響を与えるのは数分間だけです」とBOMは説明する。 ベイジアンは沈没したとき、一晩にわたって停泊していた。海上竜巻の直撃を受けたと広く考えられているが、まだ確認されていない。 「暗闇だったため、沈没時の画像がありません」とイタリア気象学会の会長ルカ・メルカリ氏はメールで述べている。 ヨットは強風にあおられても、元に戻るように設計されている。「ヨットの船底には大きくて重いフィン・キール(センターボード)が付いているため、傾いても真っすぐに戻ります」とシルズ氏は説明する。 しかし、船内に水が入り込むと浮力を失って、横倒しになる可能性がある。「ノックダウン(転覆)と呼ばれる状態です」とシルズ氏は話す。浮力がない状態で、「しばらくすると、開いたドアから水や波が入り、船内に水がたまり始めます。そして、船が沈み始めます」 イネス氏によれば、風の強さや方向が急に変わることもヨットにとって危険だという。「ヨットが激しく動揺する可能性があるためです」
気候変動によって海上竜巻は増えるのか?
スペインのバレアレス諸島沖で行われた研究では、海面の温度が高いとき、具体的には23~26℃のとき、海上竜巻がより頻繁に発生することがわかった。 2024年、「地中海の温度は平年を(2.7℃以上)上回っています」とメルカリ氏は語り、「『極端』とされるほどの異常」だと分析した。このような異常に暖かい海水は、年ごとの変動だけでなく、気候変動の影響があるかもしれない。 気候変動は陸上と水上で竜巻を増加させるのではないかと懸念する専門家もいる。 「地球温暖化はあらゆる異常気象を増加させるでしょう。大気がより多くのエネルギーを蓄えることになるためです」とメルカリ氏は話す。 一方、気候変動との明確な関連性を認めることに慎重な専門家もいる。「海上竜巻は非常に短命で局所的な現象です。そのため、気候変動の影響と断定するのは難しいでしょう」とBOMは述べている。 地中海はほかの海域より急速に温暖化している。気候変動によって海面の温度が上昇するのは確かだが、海上竜巻が起きるそのほかの条件にどのような影響があるかは不明だ。 海上竜巻が起きるには、空気と海水の温度差が必要だ。大気が海域と全く同じように温暖化しているのであれば、海上竜巻は増加しないはずだとシルズ氏は考えている。 低気圧も必要だ。「たとえ海水が本当に暖かくても、地中海の上空に高気圧があれば、雷雨は発生しません」とイネス氏は話す。「海上竜巻が発生することもありません」 風向きも関係する。この地域では、北アフリカからの乾燥した風より、北からの湿った空気の方が嵐を引き起こす傾向にある。 メルカリ氏によれば、過去のデータが乏しいため、海上竜巻が増加していることを確認できないという。「しかし、強風、ダウンバースト(下降気流)、大雨、ひょうを発生させる雷雨を含む大嵐は、世界的にもイタリアでも確実に増加しています」
文=Melissa Hobson/訳=米井香織